根絶を目前に増えてしまったポリオ感染
一方、もちろん子供自身の生後2カ月からのワクチン接種も大事です。よく「もう日本では流行していない感染症もあるのに……」などと言う人もいますが、一度収まったと思われた感染症が再興することがあります。実際、今ポリオは根絶を宣言した国々でも再び流行の兆しを見せているのです。ポリオの感染者は、アフリカ、ウクライナ、アフガニスタン、パキスタンなどに多いのですが、不活化ポリオワクチンの接種率が高いイギリスやアメリカも発生国に入っています(※6)。
ポリオは、感染者の一部ではありますが、高熱が数日間続いた後に筋肉が麻痺し、その麻痺が生涯にわたって残る病気です。昔は「小児麻痺」と呼ばれていましたが、日本での正式な病名は「急性灰白髄炎」。小児麻痺と呼ばれるものの子供だけの病気でなく、大人になってもかかることがあります。麻痺が残るのは手足の筋肉のこともありますが、呼吸筋に残ることもあり、そうなるとずっと人工呼吸管理が必要です。
書籍『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子、講談社)に小児麻痺の子が登場するように、かつてはよくある病気でした。が、ポリオウイルスはヒトにしか感染しないこと、有効なワクチンがあることから、WHOは根絶を目指してきました。ところが根絶達成を目前にして、残念ながら感染者が増えてしまっています。
※6 外務省「ポリオの発生状況」
イギリスやアメリカの素早いポリオ対策
今年6月、イギリスのロンドンの下水からポリオウイルスが検出されました。ポリオウイルスは、ヒトの腸で増えて排出されるのです。ポリオウイルスが下水から複数回にわたって検出され、ウイルスの遺伝子解析から伝播型だと判断したイギリスの対応は早く、発症者が出る前に、ロンドン在住の1〜9歳のすべての子供に不活化ポリオワクチンを追加接種することになりました。もともとイギリスのポリオワクチンの接種回数は日本よりも多く、0歳で3回、3歳で1回、14歳で1回と5回も受けるのに、さらに追加接種を決定したのです。
続いて7月には、アメリカにおいて宗教上の理由からワクチンを一切受けていなかった成人男性がポリオを発症し、麻痺が残りました。ニューヨーク州の下水を調べたところ複数箇所でポリオウイルスが検出されたことから、ニューヨーク州では緊急事態宣言が出され、未接種者への接種はもちろん、医療従事者にもポリオワクチンを追加接種することを決定しました。
これはポリオ感染者の90〜95%は症状がない不顕性感染であり、さらに麻痺が残るのは1%だからです。つまり、ポリオによる麻痺患者が1人出たということは、ポリオに感染したものの症状が出ていない人が多数いる恐れが高いからこその対応策でした。