貨物事業はコロナ禍で数少ない黒字事業

これはどれほどのビジネスになるのだろうか。ANAカーゴが公表する国内航空貨物の運賃から大まかに推測できる。

20年11月の一般貨物1キログラム当たりの運賃は福岡─那覇間の場合165~425円(1口ごとの重さによって変動する)。中央値で計算してみると、800キログラムを運んだ場合の貨物収入は20数万円となる。あくまで目安の数字ではあるが、航空ビジネスの規模を考えると微々たるものだ。

そこまでしてANAHDが貨物事業に注力する理由はどこにあるのか。それはコロナ禍に見舞われた同社の数少ない黒字事業が貨物だったからだ。21年3月期、ANAHDの売上高は前の期から6割以上減って7286億円となった。

一方、貨物郵便事業の売上高は1868億円と前の期に比べ4割弱も増えた。その明暗は22年3月期も続いた。HD全体で約1兆円の売上高のうち、貨物郵便事業で約3600億円を稼ぎ出した。事業単体の利益水準は公表していないものの、大幅な黒字を記録したようだ。

「グループの救世主ですよ」

ANAカーゴの幹部は冗談交じりにこう自負する。

出典=『ANA苦闘の1000日』(日経BP)より

グループ一丸で収益機会を逃さないように動く

貨物事業の収益力向上は、ANAHDにとってコロナ禍のポジティブな「反作用」と言えるだろう。当初は旅客便の大幅な減少によって貨物スペースの供給が大幅に減ったが、マスクなど衛生関連物資の輸送が急務となり、需要はそこまで落ちなかった。旅客機の座席スペースにまで段ボールを積み込んで輸送していた。

コロナ禍で旅客需要が低迷する中、貨物という貴重な収益機会をみすみす逃すわけにはいかない。「毎日のように販売やオペレーション、海外支店など各部門がオンラインで話し合い、貨物需要の現状などを共有してきた」。ANAカーゴの上席執行役員、湯浅大はグループ一丸で貨物事業の収益機会を逃さぬよう動いた様子を振り返る。

まず取り組んだのは輸送ニーズの把握だった。

通常、日本の貨物輸送では、貨物を運ぶ航空会社や海運会社と荷主の間を「フォワーダー」が仲介する。代表的なプレーヤーは日本通運や近鉄エクスプレスなどだ。サプライチェーン(供給網)の現状など様々な情報もフォワーダーを経由して得ることになる。

コロナ禍のような非常時であってもその原則は変わらない。ただ、供給網を正常化させていきたい荷主が、空運の現状を詳しく把握しようと航空会社に直接問い合わせるケースも増えていった。全体像を把握する上で、荷主からの直接の問い合わせは重要な意味を持つ。従来のフォワーダーからの情報、問い合わせをきっかけとした荷主とのやり取り、そして各国の報道。ANAカーゴは各部門が得た様々な情報を組み合わせながら、「サプライチェーンについて感覚を研ぎ澄ませた状態にすることに力を費やした」と湯浅は話す。