意地を張れ、身勝手に生きろ

50代の新たな受難の時代を前にして私の『会社人生、五十路の壁』が文庫化されるということは、手前みそに聞こえるかもしれないが、大いに意義があると考える。

49歳で会社という後ろ盾を自ら打ち捨ててしまった男が、七転八倒しながらも、なんとか古希(70歳)までもう少しというところまで生きてきたのである。50代にとって最悪の時代を迎え、「五十路の壁」をよじ登る1本のロープぐらいにはなるのではないだろうか。

私が、リストラ対象の50代に言いたいことは1つだけである。「意地を張れ」ということだ。ありていに言えば身勝手に生きろということだ。

会社がリストラを迫っても、ホイホイと受けるんじゃない。とことん会社にしがみつくべきである。今までの経験も実績もまったく評価せずリストラを迫ってくる会社に一泡吹かせるなら、居残って、意地を張り、身勝手に振る舞い「異端」として会社内に居場所を作るのだ。

私が作家になった時、生意気にも編集者に書きたい物を書かせて欲しいと言ったのも、意地であり、身勝手な振る舞いだった。せっかく作家になったのに出版社という組織の言いなりになりたくなかったのだ。「異端」として生きるためには、今までにない努力が必要になる。そうしないと無視されてしまうだけだ。少なくとも私はそうしてきた。

「異端」的に身勝手に振る舞うと、小説を書くという仕事が楽しくなった。仕事といえば苦痛を伴うというのが相場だが、楽しいのである。極端なことを言えば、小説を書くことが、自分自身のエンターテインメントになったのだ。「異端」的に意地を張って、身勝手に振る舞った結果であると言えなくもない。

「異端」を極めれば仕事も「本物」に変わる

リストラ対象の50代が私のアドバイスにしたがって「異端」として会社内に居場所を作ろうと覚悟した瞬間に、仕事は与えられるものではなく、自分のものに姿を変えるだろう。やらされたり、役員のご機嫌取りの仕事ではなく、本物の自分の仕事になるのである。やらされる仕事から、やりたい仕事へのチェンジである。

このチェンジに成功すると、私が小説を書くことが楽しくなったのと同様に、リストラ対象の50代のあなたも仕事が楽しくなるだろう。

どんな時代が訪れようと、どんな不都合な事態になろうとも、仕事が楽しければ夢中になれる。夢中になり、楽しく仕事をすれば、自ずとあなたの会社内外で居場所ができるだろう。

江上剛『50代の壁』(PHP文庫)

もし、やむを得ずリストラに応じて会社を退職することになっても、後ろ髪をひかれるような思いを残して退職すべきではない。「ありがとうございました」と気持ちよく頭を下げて、組織の後ろ盾がない世界に飛び込もう。その時も意地を張り、身勝手に振る舞い、「異端」となるように努力するのだ。

どうしたら仕事を楽しくすることができるか、それを見つける1つの方法が「異端」になることだ。50代の今まであなたは会社のために「正統」として従順に歩んできたかもしれない。それなのに会社はあなたをリストラしようとする。それならば「ニヤリ」と不敵な笑みを浮かべて「異端」になる道を選ぶのだ。このチェンジを会得できれば、あなたは易々と「五十路の壁」を乗り越えることができるに違いない。

悲しそうに俯いたり、未来を悲観したりせず、明るく楽しく「異端」の人生を歩もうではないか。文庫『50代の壁』はそんなあなたを応援する。

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