祝福二世を授かったのは幸福なことだった

正直驚きました。まさか自分が妊娠しているとは、想像もしていなかったからです。避妊は教理上認められていなかったので(※)、妊娠をしていてもおかしくはなかったのですが、つわりもなく、自分の体形の変化にもまったく気が付きませんでした。

※神の子を産み増やすことが祝福家庭の責務であるため、自らの意思でコントロールしてはいけないと言われていた。そのため祝福家庭には多産が多い。

4カ月といえば少しずつお腹が膨らんでくる時期です。多少の動揺はあったものの、とてもうれしかったことを覚えています。祝福二世(※)を授かるということは、何よりの福であり、この世に多くの子どもを産み落とすことは祝福を受けた夫婦の大きな使命でもありました。

※統一教会信者同士の夫婦(祝福家庭)に生まれてくる子どもは、神の血統を受け継いだ無原罪の二世とされる。

「俺の人生終わったな」妊娠を知らされた夫の反応

病院からその足で役所に向かい、母子手帳をもらいました。母になる喜び、生まれてくる子どもに対する愛おしさが溢れ、その時の幸福感といったら言葉にできません。女性はお腹に命を宿した時から母性が目覚めるのだと実感しました。

冠木結心『カルトの花嫁 宗教二世 洗脳から抜け出すまでの20年』(合同出版)

「子どもができれば、夫も少しは変わってくれるかもしれない」

そんな淡い期待を抱きながら、家路へと急ぎました。そして、いつものように夕方から出かけようとする夫を呼び止め、病院で渡された超音波写真を見せながら、共に喜んでくれることを信じて子どもを授かったことを報告しました。しかし夫はその写真に目を落としながら、にわかに信じがたい一言を放ったのです。

「俺の人生終わったな」

そして、オートバイのエンジン音と共に、新宿の街へと消えて行ったのでした。

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