暴力に耐えかね、とっさに家を飛び出して走って逃げた

ある日、職場から帰宅すると、珍しく夫はまだ家にいて、やはりなんだかんだ難癖をつけてはいつものように暴力が始まりました。私は自分の感情が抑えられなくなるのが怖くて、帰宅した姿のまま家を飛び出します。夫が追って来るのではないかという恐怖で、死ぬ気で走りました。走って走って、夫の呪縛から完全に逃れられるところまで必死になって走りました。

ふと気が付くと、私はとある駅にたどり着いていました。日も沈み、もう夜の気配が感じられる街並み。ただひたすら涙を流しながら街を徘徊はいかいしていると、目の前にホテルの文字が飛び込んできました。予約もなく飛び込んだホテルは、私にとっては高級すぎたけれど、行き場をなくした私にはシェルターそのものでした。とにかく自分の心を落ち着かせたかった。私はその晩、そのホテルに泊まることにしたのです。

翌日、ホテルからそのまま出勤しました。同僚が、昨日と同じ服を着ていることを変に思うかもしれないと思いながらも、家に帰って着替える勇気はありませんでした。携帯の電源はオフにしたままにして、夫からの連絡を一切取らないようにしていましたが、もしかしたら職場にまで来るのではないかという恐怖が、仕事をしている私の心をいつも支配していました。午後になると、一本の電話が職場に入ります。

「お母さんからですよ」

DVと経済的困窮を知って母は動揺した

受話器を耳に当てると、甲高い声が受話器を通して鼓膜を突き刺します。

「あなた! 昨日はいったいどこにいたの?」

私が帰って来ず、連絡がとれないことを、夫もさすがにまずいと思ったのでしょう。母に連絡を入れ、母は私の職場にかけてきたのです。ここでは詳しい話はできないと母を宥め、終業後に実家へと向かう約束をしたのですが、気が重くてなりません。一筋に信仰する母のこと、「あなたの信仰に問題があるのよ!」とお説教を食らうことは手に取るようにわかりました。

知られてしまったからには仕方がありません。少しでも良い方向に進むようにと願いながら、実家へと重い足を運びました。私が家出したことによって、夫の暴力、経済的に困窮していることなどが母の知るところとなりました。まさかそんなことが起きているとは想像すらしていなかった母は、少し動揺しているようにも見えました。