プーチンの主張を無視してきたのはバイデンのほう
【東郷】プーチンもきっと同じような受け止めだったのだろうと思います。プーチンが一貫して主張してきたのは、ウクライナのNATO加盟は許容できないということと、ウクライナ東部のロシア系ウクライナ人を保護してほしいということです。それと同時に、プーチンは戦争を回避すべく、昨年一二月にアメリカとNATOに条約草案を示し、交渉を呼びかけています。
ところが、バイデンやゼレンスキーはロシアのいい分に一切耳を傾けようとしませんでした。これがプーチンが戦争を決断する一因になったことは否定できないと思います。
【中島】私は以前、東京裁判でA級戦犯は無罪だとする判決書を書いたインドのパール判事のことを調べ、『パール判事』という本を書きました。パール判決書はしばしば誤解されていますが、日本が何の罪も犯していないとは書いていません。パールは南京虐殺をはじめとする日本軍の虐殺行為を事実と認定し、厳しく非難しています。しかし、事後法によって被告を裁くことはできないとして、A級戦犯は法的には無罪だと判断したのです。
パールはハルノートにも注目しています。ハルノートのようなものを突きつけられれば、どんな国でも立ち上がっただろうとして、日本を追いつめたアメリカを非難しています。
もちろんパールは、だから日本には責任がないとはいっていません。日米開戦は日米双方に責任があり、日米は同罪だといっているのです。
「こんなにうまくプーチンが引っかかるとは」
【中島】これは今回のウクライナ戦争にもいえることだと思います。プーチンには大きな責任がありますが、アメリカがロシアを追い込んだことも確かです。東郷さんもパールと同じ見方をしているのではないでしょうか。
【東郷】おっしゃる通りです。ロシアのやったことは決して許されることではありません。厳しく批判されて当然です。その一方で、アメリカがロシアを戦争に踏み切らせたという側面も見落としてはなりません。
最近私は確度の高い情報として、ネオコンとして有名なアメリカのビクトリア・ヌーランド国務次官が「こんなにうまくプーチンが引っかかるとは思っていなかった。これでプーチンを弱体化できる」という趣旨のことをいっていたという話を聞きました。
ヌーランドはオバマ政権時代には国務次官補を務め、当時のバイデン副大統領のもとでウクライナの親ロ派政権を転覆したマイダン革命に関わっています。そのころ彼女がウクライナ側とやり取りしている音声データも流出しています。