アメリカの価値観を押しつけても反発するに決まっている

【中島岳志】この戦争がどのような結末を迎えるかは、アメリカの動きに左右されます。そこで、バイデンがどういう人物かを理解することが非常に重要になると思います。

東郷さんが必読書とおっしゃるバイデンの自伝『約束してくれないか、父さん』を私も熟読しました。彼はオバマ政権の副大統領時代にプーチンと会談し、「あなたには、心というものがない」などと述べ、プーチンを面罵しています。アメリカの価値観からすれば、プーチンのような専制主義的な人間はどうしても受け入れられないということなのでしょう。

確かにアメリカの掲げる自由や民主主義は重要ですし、ロシアの体制に問題があることも事実です。しかし、アメリカの価値観を無理やりロシアに押しつけるべきではありません。そんなことをすればロシアは反発するに決まっています。

オバマ政権も最初のころは自分たちの価値観を他の国に強要することは控えていたと思います。その典型が対中政策です。オバマ大統領は中国を批判しつつも、彼らとの結びつきを強め、包摂していくことで、中国をソフトランディングさせる方法を模索していました。

ところが、時間がたつにつれてオバマ政権は変容していき、アメリカの価値観を絶対視するようになりました。その結果、政権末期には中国ともロシアとも真正面から対立するようになってしまったのです。

アメリカはかつてのソ連と同じことをしている

【中島】私がウクライナ戦争に関して的確な分析をしていると思ったのは、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマーです。彼はウクライナ戦争の原因はNATOの東方拡大にあると述べ、オバマ政権時代にこの動きを進めたのは副大統領だったバイデンだと指摘しています。

ミアシャイマーによれば、バイデンは「リベラル覇権主義」の中心人物です。リベラル覇権主義とは、アメリカの対テロ戦争を支えた思想で、アメリカ流の民主主義を世界に波及させることを目的としています。要するにネオコンです。アメリカはこの考え方に基づいてイラク戦争を引き起こしましたが、彼らの試みは結局失敗に終わりました。しかし、この思想はその後もしぶとく生き残り、ウクライナ戦争を招いたというのがミアシャイマーの見立てです。

また、ミアシャイマーは、アメリカはキューバ危機を想起すべきだと指摘しています。一九六二年、ソ連がキューバにミサイル基地を建設していることが判明すると、アメリカは猛反発し、核戦争寸前まで緊張が高まりました。ミアシャイマーは、アメリカがウクライナでやってきたことは、ソ連がキューバでやったことと同じだといっています。