ロシアのウクライナ侵攻を止めるにはどうすればいいのか。元外交官の東郷和彦さんは「米国のバイデン大統領のように『自分が100%正しい』という外交姿勢では、プーチン大統領を止めることはできない」と指摘する。政治学者の中島岳志さんとの対談をお届けする――。

※本稿は、東郷和彦『プーチンvs.バイデン ウクライナ戦争の危機 手遅れになる前に』(K&Kプレス)の対談「ウクライナ戦争と大東亜戦争」を再編集したものです。

米国のジョー・バイデン大統領
写真=CNP/時事通信フォト
米国のジョー・バイデン大統領=2022年11月2日、米国ワシントンD.C.

戦争終結にこぎ着けた日本の経験が役立つはずだ

【東郷和彦】ウクライナをめぐる状況は深刻です。アメリカをはじめ西側諸国はウクライナを支援し、彼らに武器を提供してきましたが、それはむしろ戦争を長引かせ、事態を悪化させるだけです。このままでは想像もできない惨禍がもたらされる恐れがあります。いま必要なのは武器の提供よりも停戦交渉です。私たちは一刻も早く停戦を実現する必要があります。

その際に参考になるのが、日本の経験です。かつて日本はいわゆる大東亜戦争に突入し、多くの犠牲者を出しましたが、様々な人たちの努力によって戦争終結にこぎ着けました。この歴史から学べることは多いはずです。日本思想に詳しい中島さんとの対談を通じて、こうした問題を議論していければと思っています。

まず、最近欧米で行われている議論を振り返っておきたいと思います。欧米は一貫してウクライナ支援を訴えてきましたが、わずかではありますが、次第に停戦を求める動きが見られるようになっています。

たとえば、五月一九日のニューヨーク・タイムズの社説は、「ウクライナが決定的な軍事的勝利を収めるという目標は、現実的ではない」「非現実的な期待をすれば、アメリカやNATOはお金がかかってダラダラ続く戦争にさらに深く引きずり込まれることになる」と批判しました。

勝利よりも終戦を呼びかける声が増えている

【東郷】また、五月二三日にはアメリカのキッシンジャー元国務長官がダボス会議にリモートで参加し、ウクライナはクリミアの現状を受け入れ、ウクライナ東部のドネツク州、ルガンスク州のロシア人居住区で自治権を認めるべきだといった趣旨の発言をしました。

これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は激怒します。彼はニューヨーク・タイムズとキッシンジャーを名指しで批判し、激しく罵りました。

こうした事態を受けて、今度はアメリカのバイデン大統領が五月三一日にニューヨーク・タイムズに寄稿します。彼は「アメリカはプーチン氏の追放を模索していない」「ロシアに痛みを与えるためだけに戦争を長引かせることはない」とする一方、「ウクライナを強くするために引き続き対処する」と述べました。

これは結局、ウクライナに武器を提供し続けるということですが、これまでと違ってプーチンを刺激しないように慎重ないい方をするようになっています。

また、アメリカのノーム・チョムスキーはプーチンに「手土産」をあげても戦争をやめるべきだといっていますし、フランスのエマニュエル・トッドは「この戦争は簡単に避けることができた」としつつ、フランスやドイツは戦争から抜けるべきだといっています。こうした声は傍流の域を出ないとはいえ、注目に値します。