90分以上の時差が生じている場合、情緒面のリスクが高くなる
平日と休日の起床・入眠時刻がずれることで、脳はさまざまな機能障害を起こし始めます。寝つきの悪さに始まり、起床時に自律神経が乱れているため、頭痛・腹痛・気分不良・吐き気などが生じ始めます。日中の眠気、物忘れ、そして次第に意欲が低下し始め、さらに情緒の不安定さなどのために対人関係に問題が生じやすくなります。
このように日常生活が困難となり、社会での生活にゆとりがなくなって、苦しくなってしまう状態の始まりが「社会的時差ぼけ」です。飛行機により短時間で時差の大きな外国に移動したときと同じ、時差ぼけの症状が生じてしまうことになります。
この社会的時差ぼけは、子どもでは1時間半、大人では2時間以上ずれがある場合とされています。しかし、この定義は若干あいまいなところがあり、スウェーデンでは調査対象者の93パーセントが1時間程度の時差をもっていたため、異常値を2時間にしたとされています。また、この調査の対象年齢が16〜19歳と高いことも考慮しておく必要があります。
幼児や学童に通う子どもを対象にした、瀬川昌也氏や熊本大学が行った調査では、90分以上の時差が生じている場合、子どもたちの情緒面に不安定さが生じるリスクが高く、また学童期以降は自律神経症状が有意に出現しやすくなるデータがあります。社会的時差ぼけの定義として、幼児から中学生については1時間半以上としておくほうが現実的だと考えられるのです。
子供が朝6時台に起床することは難しくなかったが…
社会的時差ぼけが起こっているかどうかは、睡眠票を記録することでわかります。進行すると、不登校の原因につながりやすく、早めの対応が必要です。1〜2歳頃にプログラミングされた体内時計が指示するリズムでつくられる眠りを、自分の意志で削ったり長くしたり、毎日の入眠・起床時間を勝手に変更することは、本来できないものです。
1960年頃のNHKの大規模調査によれば、日本の大人の平均睡眠時間は、夏は8時間4分、冬は8時間40分でした。当時はまだテレビが各家庭に普及しておらず、深夜番組が少ない状況で、子どもは主に20時台、大人は主に22時頃に就寝していました。
この頃の子どもたちには、朝6時台の起床はそれほど困難ではありませんでした。しかし現代では、子どもたちも夜型生活にならざるを得ないため、朝6時台までに脳と心身の健康を守るために十分な睡眠時間を確保するのは極めて困難になっています。
慢性的な睡眠不足とその蓄積にともない、若い世代に脳機能の低下が生じ始めたことは、非常に危険で、心配なことです。