「睡眠の時間はただ休んでいるだけ」は間違い

「睡眠の時間はただ休んでいるだけで、無駄な時間だ!」「睡眠の働きは、体の疲れを回復させることだ」

そう考えている人はいませんか。これらの考えは、とんでもない勘違いです。睡眠は決して無駄な時間ではありません。しかし実は、特に眠らなくても安静を保っていれば筋肉の疲労は回復します。では、睡眠はどうして大切で、生きるために必要なことなのでしょうか。

眠りはヒトの脳の働きを守り、全身を構成する37兆個もの細胞の働き(協調性)を統率しています。また、概日リズムをつかさどるリーダーとして、次の重大な働きをもっています。

1 脳機能のバランスを保つ
2 体温を適切に保つ
3 ホルモンを時間通りに適切に分泌する指令を出す
4 自律神経を適切に働かせるよう指示する
5 生体防御(免疫)を高める
6 体がスムースに協調して動くよう働きかける
7 エネルギー生産の調整性

など、ヒトの生命維持機能の根幹にかかわる基本として働いているのです。つまり、眠りがないとヒトは生きていけないのです。

適切な生活リズムをつくる「中枢時計」と「末梢時計」

特に脳が形成される0歳から20代頃までは、眠りが生涯における心身の健康の維持につながります。睡眠医学の大家である井上昌次郎氏は『眠りを科学する』という著書のなかで「高等な脳は睡眠を必要とする。眠ることは生きることである」と述べています。脳が発達してきた生き物ほど、眠りは発達し、大事な役割を果たすようになってきたのです。

また、「睡眠とは生きるためのもっとも賢い行為の1つであり、睡眠時間が削られたり、精神的緊張で占められたりすると短命となる」と記載されています。現在、これは睡眠に対する正しい解釈だと科学的に解明されてきています。睡眠の時間は、無駄な時間どころか、ヒトの命を支えるもっとも大事な行為であり時間なのです。

地球上で生活しているすべての生物は、地球の自転のリズム(約23時間56分4秒)を基準に生活しています。この約24時間を1日単位として、休息(睡眠)と活動(覚醒)を繰り返す概日リズムは、とても大切なリズムです。特に現代人においては、明確に24時間のリズムで生活することが要求されています。この1日の生活リズムの指令を出しているのが、視交叉上核と呼ばれる脳の左右にある小さな組織で、「中枢時計」と呼ばれています。

中枢時計は、もう1つの時計機構である「末梢まっしょう(内臓)時計」(主に食事にともない活動を始める)と協調して1日の生活リズムをつくります。このように概日リズムは、睡眠・覚醒を中心とした中枢時計の働きと、規則的な食事習慣により活動する末梢(内臓)時計の2つが協調してはじめて、適切な1日の生活リズムがつくられるのです。

写真=iStock.com/nambitomo
※写真はイメージです