出世できないとわかるのが「あまりにも遅い」

では、この独特さを、その他の先進国と比べることで確かめてみましょう。

少し古いデータですが、国際比較した定量調査によれば、入社後に個々人の「昇進の差」が出始めるタイミングは、ドイツ企業で入社後平均3.7年、アメリカ企業が3.4年、日本企業は7.9年程度です。その後、昇進の見込みがない人が5割に達する時期は、ドイツ企業がおよそ11.5年、アメリカ企業が9.1年、日本企業は22.3年です(図表3参照)。日本では22歳前後で入社する人が多いとすると、先程の「出世意欲の限界」とおおよそ一致します。

出所=佐藤博樹、2002、「キャリア形成と能力開発の日独米比較」『ホワイトカラーの人材形成』(東洋経済新報社所収)より筆者作成

日本企業で働き始め、ようやく昇進に差が付き始めるころには、アメリカ企業ではそろそろ過半数が昇進の限界を迎えるのです。つまり、先程のデータで示した、日本における昇進の「頭打ち」の平均42.5歳という数字は、世界的水準で言えば、あまりにも「遅い」のです。

逆に言えば、それまでの長い間、組織内出世という可能性を広く与え続けるのが日本企業の人事管理です。

転職市場の「35歳限界説」は本当だった

転職市場にはかねてより「35歳限界説」という言葉が流布していました。

35歳限界説とは、会社員は35歳を超えるとなかなか転職が難しくなる、企業から採用されなくなる、という意味です。この俗説は、ミドルの転職が増えていくにつれて消えてきた、なくなってきたと言われることが多くなりました。

そこで筆者は、こうした中途採用時に年齢の与える影響を、採用担当者を調査対象にしたコンジョイント分析というやや特殊な実験的方法で測定してみました(※)

その結果、やはり高齢になるほど、特に、35歳以降は採用されにくくなっていました。企業規模や採用担当者の属性による差は特になく(医療・教育・福祉の業界はやや年齢によるバイアスが少ない)、こうした年齢によるバイアスは広い範囲で見られました。

どの程度採用されにくくなるかというと、35歳を超えると、5歳分歳をとるごとに出身大学偏差値が10低下することと同程度の採用抑制効果が見られました。受験のときを思い返してみれば、偏差値10の差はかなり大きな差です。学校や塾などで頑張った分の教育投資効果がまるごと失われています。

その他にも、転職回数が多いほど、無職期間が長くなるほど、採用費(人材紹介費)が高くなるほど、採用されにくくなることも示されましたが、それらの効果とは独立して、年齢という要素だけで大きく人は採用されにくくなります。「35歳限界説」はかなり明確に、広く日本の転職市場に根強く残っていそうです。

※コンジョイント分析とは、主にマーケティング分野において商品やサービスの持つ複数の要素のどれが重要なのかを分析する、実験計画法と呼ばれる手法の一つ。例えば、ある人が自動車を購入する場合、色、価格、エンジン、乗車定員、メーカーなど多くの要素を総合して購入を決定する。それらの複数要素の無数にある組み合わせをすべて評価しなくても、要素を組み合わせたいくつかのカードを評価させることで項目別の影響度(効用値)を算出することができる。