かくして転職できない中高年が大量に生まれる

さきほど校内マラソン大会のような出世競争から「降りる人」や「限界を感じる人」が多くなるのは、平均で42歳ごろだというデータを紹介しました。校内マラソンにたとえているのは、同年代の「同期」を準拠集団としつつ、職種や配属にかかわらず「みな」が同じスタートでヨーイドンの出世競争を始めるからです。

最初のころは「みな」が競争しているので、その中でリードしていること(勝つ見込みがあること)が動機づけやパフォーマンスを向上させますが、40歳をすぎるころには、まだ出世の見込みが残っている、先頭集団だけの競争になります。どんな企業でも、上位のポストになればなるほど仕事の複雑性が増してポストも限られてくるので当然です。

しかし、先述したとおり、35歳神話が根強く残っているので、そのころにはすでに転職市場では価値がガクンと下がってしまっています。

不満だけを溜めて外にでない中高年層が大量に発生するのは、この長すぎる出世競争が終わるころにはすでに「簡単には外にでられない」状態になってしまっているためです。しかもその動機づけ競争を主導しているのは企業側です。

その状態の中高年にいきなり「外にでることも考えて」と告げるだけでは済まされないでしょう。

キャリアを自分で選ぶ権利もはく奪されている

これまで見てきたことのまとめとして、それらを従業員側の経験(EX:Employee Experience)の面からまとめて記述してみましょう。

⓪学生時代――偏差値を基準にした(学ぶ内容を基準としない)大学入試と、学んだ内容と紐付かない就職活動

①就職時――卒業と同時に入社する、未経験での間断なき就職

②入社時――スタート地点における幹部候補の「横並びのスタート」

③若年期――職能等級によるゆっくりとした「能力による査定・選抜」と、意欲のシンボルになる長時間労働の慣習

④若手中堅期――何回かの異動による企業内経験・広い人脈の蓄積と、キャリアの計画性の喪失

⑤若手中堅期――職務内容と関係なく、査定を繰り返し少しずつ年功的に上がっていく処遇

⑥ミドル期――出世の天井が来てモチベーションが下がるが、会社をでてまで計画的にやりたいことは見つからない

⑦シニア期――管理職まで出世した場合も、50代をすぎてポスト・オフや出向などで管理職から離れ、一気に処遇とやる気が落ちる

⑧シニア期――60/65歳の定年を迎え、処遇が大幅に減少。引退モードの気持ちのまま、ゆるく働き続ける

日本では、若手従業員にとっては、大企業から中堅企業まで未経験者でも就職できる間口が大きく開いていることで、学校卒業と入社が同時に起こる「間断なき就職」が実現しています。

勤務地・部署は希望こそ出せますが、入社後に広範囲に配置・職務異動があるために、キャリアを自分で選ぶ権利が半分剥奪されています(逆に言えば、新卒時に配属希望が通っている従業員は、自律的なキャリア意識が高くなっていることがわかっています。後ほど詳しく論じていきます)。