「よし、言ったな。10万、死んでもやれよ!」

「おはようございます。私の今月の営業目標、業粗ぎょうあら(業務粗利益)項目で、500万に対して350万が未達成となっています。申し訳ありません。えー、今日の予定といたしましては……」
「具体的に言えよ! どこで何していくら稼ぐって。どうするんだよ!」

前の2人はあっさりと通過したが、私の発言に寺川支店長が噛みついた。人事部との一件から、明らかに私はターゲットにされていた。

急に心臓がズキンと鳴り、動悸どうきが激しくなる。脇や首筋から汗が吹き出してくるのがわかる。喉が急に乾いて、へばりつきそうだ。

「は、はい。まず、デリバティブのセールス対象先の……」
「違う! 今日いくら稼ぐか聞いてるんだよ! どうせできない話なんか聞きたくないわ! もう一度だけ言う、いくらだ?」
「じ、10万です」
「よし、言ったな。わかった。10万、死んでもやれよ! おまえが言った数字、今週1日も達成できてないからな。いい加減、給料泥棒はやめてもらえないかな?」
「やります」
「どこで何をするんだ! 具体的に言えよ!」
「太陽工業がA銀行でしている今月分の振込100件をうちでやってもらいます」

口から出まかせだった。この話は先週、太陽工業に持ちかけていて、すでに断られた話だった。

何時間にも感じられた上司からの攻撃

「できるんだな? おまえ、やってもらうと言ったからな! 死んでもやらせろよ。約束じゃダメだからな。やった証拠を夕方見せろよ!」
「はい」
「振込手数料っていくらだよ?」
「振込金額で変わってきますが、おおむね500円ぐらい……」
「500円を100件なら5万だろ。残り5万はどうすんだよ!」

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「外貨預金を、その……契約して……円からドルに、ですね」
「それ、どこの会社でやらせるんだよ? 言ってみろ」
「月川精機と星沢建設です」
「いいか、残り5万だぞ! 5万円分、外貨預金だといくらやらせるんだよ?」
「5万米ドル……600万円ぐらいです」
「おまえら、聞いたか? 今日、目黒が600万円分、ドルで押し込んでくるそうだ。おまえら証人だ」

その言葉で解放された。時間にしたら15分程度だったろうが、何時間にも感じられた。長い攻撃から一息ついたにせよ、これは問題の先送りにすぎない。