メガバンクで働く銀行員のなかには、上司からのパワハラに苦しむ人がいる。メガバンク現役行員の目黒冬弥さんは「赴任したばかりの支店で上司に目をつけられた。飲みかけの缶コーヒーを投げつけられ、ネクタイをつかまれながら怒鳴られたこともあった」という。実録ルポ『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)からお届けする――。(第4回)
ネクタイをつかまれ怒られるビジネスマン
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病的なまでの完璧主義者だった支店長

その日は、朝から寺川支店長がピリピリしていた。本店の人事部から担当者が来訪、宮崎中央支店の行員数名との面接が予定されていた。

人事担当はこうして定期的に面接を行うことで、支店長がきちんと支店を管理・運営しているかを評価する。まだZoomミーティングなどない時代、北海道であろうと沖縄であろうと、彼らは出張して臨店していた。

宮崎中央支店を訪れたのは、長身痩躯そうくの30代と思われる人事担当者。人事部、経営企画部、営業企画部は銀行全体の人員を動かしたり、経営計画の策定をしたり、支店長の尻を叩いて業績推進を引っ張る部署であり、本部の中枢、エリートコースでもある。

銀行という組織は、出世コースとそれ以外との差が大きい。先にあげたエリートコースにくらべ、総務関連、管財部門、事務企画部門などは日陰の浮かばれない部署である。組織にとって不可欠な部署であるにもかかわらず、「稼ぐ営業」の下に位置付けられている。

営業と事務では、営業のほうが格上という序列ができあがっている。どんな支店に属していても、営業職であれば成果を上げれば出世コースに乗ることができるが、成果がはっきりと見えない事務職ではそうはいかない。

また、支店にも格がある。格の高い支店の支店長は、人事部や営業企画部に対しても発言力がある。発言力があると、いい人材を集めることができる。だから、格の高い支店はいつまでも勝ち続け、格の低い支店は業績を上げづらいという構図になっている。

宮崎中央支店の寺川支店長は、病的なまでの完璧主義者だった。支店内でも他人のミスを絶対に許さなかった。当然、支店長の評価に関わる人事担当者との面接についても神経質になった。面接を受ける者は完璧を求められ、想定されるあらゆる質問にパーフェクトの回答をするよう、事前に想定問答を叩き込まれていた。しかし、アクシデントが起きた。