膨大な取引が行われているメガバンクでは、伝票の記入ミスなどでクレームが発生することがある。メガバンク現役行員の目黒冬弥さんは「エース営業マンのミスが、事務の行員の責任になることがあった。それから営業マンからの陰湿な嫌がらせが始まった」という。実録ルポ『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)からお届けする――。(第3回)
怒る人と拳を握りこらえる人
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エース営業マンが起こしたクレーム事件

下小岩支店で、預金担当課の課長として着任してから数カ月がすぎた。

「目黒課長、定期預金のオペレーションでミスが出ました」

午後、管理資料に目を通す私のところへ、課長代理の鈴木綾子さんが報告に来た。慌てている。

「午前中に菅平さんがお客さまを訪問し取り次いできた投信と定期預金のセット取引ですが、定期預金の金利優遇をしなければならないところ、店頭の基準金利で作成してしまいました」

菅平君は取引先課のエース営業マンだった。当時、M銀行では個人のお客が投資信託を購入すると、同じ金額分の定期預金について金利を上乗せするキャンペーンを展開していた。菅平君は1名分の投資信託と定期預金を獲得したが、伝票の記入方法を間違えたため、定期預金金利の上乗せなしで処理されてしまった。

「起きてしまったものは仕方がない。お客さまにご迷惑をおかけする前にまず修正しよう」
「いえ、通帳をこちらがチェックする前に、急ぐからと菅平さんがお客さまのところに返しに出かけてしまいました」
「チェック前に持って行ったの? まずいな。それじゃあ、すぐ菅平君の携帯に電話して……」

鈴木さんがさえぎる。

「すでにお客さまに通帳を渡してしまって、金利が優遇されていないとお客さまが気づき、クレームになっているそうです」

顧客対応はスピードが重要だ。責任の追及よりも、まずお客の立腹を治めることを優先しなければならない。菅平君の直属の上司・取引先課の薮野課長のもとに走る。

「もう遅いですよ。お客さんからのクレームでもう支店長が呼ばれてしまいました。難しいお客さんなんですよ。な~んで預金担当課でチェックできませんでしたかね?」

薮野課長は怒りとあきらめが混ざった表情をしていた。