ウクライナ侵攻の理由
また、忘れてはならないことがある。
これらの思想を持ちながらも、「国際舞台において、プーチンは現実を見据えた行動を取っている、ということです。だからこそ、ロシアという国が世界に対して強い影響力を行使することができているし、タイミング良くクリミア半島を併合することができたのです」
ユーラシア主義はプーチンの理想を体現するだけではなく、現実を見据えた戦略なのだ。アメリカの勢力に対抗する政治的な戦略として「プーチンはユーラシア帝国の建設を宣言したのです」
さらに、ドゥーギンはユーラシア主義をめぐって、ロシアとウクライナの複雑な関係を指摘している。「3年以内にプーチンは、ウクライナの一部、ドニエプル川右岸の地域をロシアに統合するでしょう」(インタビューはウクライナ侵攻以前に行われたため、ドゥーギンの予想は現実となった)
プーチンはウクライナを一つの国家として認めていない。プーチンにとって、キーウを中心としたウクライナの親ヨーロッパ地域は、「もはやウクライナという国を象徴する地域ではありません」
「これらの地域は民俗学的な意味においてはウクライナとしてのアイデンティティを残してはいるでしょうが」、もはや政治的な独立を手放してしまった、とドゥーギンは言う。
つまりユーラシア連合の実現にとって、ウクライナの親ヨーロッパ地域こそが、大きな障害になっている、ということである。
1979年生まれ。フランス語翻訳家。國學院大學文学部哲学科卒業。訳書にナタリー・サルトゥー=ラジュ『借りの哲学』(共訳・太田出版)、ジャン=ガブリエル・ガナシア『虚妄のAI神話「シンギュラリティ」を葬り去る』(共訳・早川書房)、オリヴィエ・レイ『統計の歴史』(共訳・原書房)がある。