ネオ・ユーラシア主義の中身

それでは、ネオ・ユーラシア主義の代表者であるドゥーギンの思想を見てみよう。

ドゥーギンの思想は、ユーラシア主義と極右的な思想とを混ぜ合わせたものだ。

2009年に書かれた『第四の政治理論の構築』と題された本の中で、ドゥーギンはユーラシア帝国の理想を掲げ、西側諸国の自由主義や民主主義と争う姿勢を表明している。内容を紹介しよう。

この本の中で彼は、「グローバル化した自由主義」が価値観の多様化をもたらし、「ポストモダン的な分裂を引き起こし、世界を破滅へと導く」と主張する。

「世界の若者たちは既に、破滅の一歩手前まで来ている。自由主義によるグローバル化が、人々の無意識に働きかけ、習慣を支配し、広告、娯楽、テクノロジー、ネットワークといったさまざまな分野に深く浸透している。その結果、世界の人々は自分の国や文化に対する愛着や、男女の違いを喪失し、人間としてのアイデンティティまでをも手放してしまっているのだ」

ドゥーギンの立場は、ユーラシア主義と極右勢力の掲げる「新しい社会秩序」の理論とを掛け合わせたものだ。それだけではない、神秘主義とメシア信仰の混在した思想も彼の特徴である。例えば、彼の著作のある章にはこんな題が付けられている――「反キリストの王国としてのグローバルな民主主義」。

彼によると、ロシアの進む道は二つに一つだ。悪しきグローバル化の波に飲み込まれるか、グローバル化への抵抗運動を主導していくか、である。

「ウクライナをめぐり西側との争いは避けられない」

2012年以前のプーチンはまだどちらも選択してはいなかった、と彼は言う。

「ロシアの権力者(プーチン)は露骨な西欧主義を取ることはなかったが、かといって別の立場(スラブ主義、ユーラシア主義)を選択することもなかった。態度を決めかねていたのだ」

しかし、「いつまでも問題を先延ばしにしているわけにはいかない。今後の西側諸国との関係を決定づけるような決断を迫られる日がやってくるだろう」。

現在、かつてソビエト連邦の一員だった国々がロシアを離れてヨーロッパやアメリカの方へ歩み寄ろうとしている。そして、それらの国々をめぐって、ロシアは西側諸国と対立している。ドゥーギンはこのような事態を早くから予見していたのである。彼は言う。

「もしもウクライナとジョージアがアメリカ帝国の一員となったならば(……)ロシアの進める領土拡大の計画にとって大きな障害となるだろう」
「ロシアによるウクライナ併合を阻止するという、アメリカ陣営の目論見が既に始まっているのである」

一方、ロシアも2008年にジョージアへ侵攻したのを皮切りに、次なる一歩に向けて準備を固めた。「クリミア半島とウクライナ東部をめぐっての西側諸国との争いは避けることができない」、こう彼は結論づけている。