ドゥーギンが見た大統領の頭の中

以上、簡単にドゥーギンの思想を紹介したが、私は彼に直接取材を行っている。

プーチンに影響を与えた哲学者について、彼に話を聞いたのだ。彼によれば、プーチンの中には、いくつかのイデオロギーのモデルが何層にも重なって存在している。

「まず、プーチンはソビエト時代に教育を受け、KGBで経験を積んだ、典型的な『ソビエト人』です。ソビエト人としての心性がプーチンの哲学思想の第1の層です。

ソビエト人としての彼は、資本主義世界が敵であるという世界観を持っています。この土台に重なる層として、ロシア革命後の移民たちによって展開された白軍運動、つまり帝政ロシアへの回帰を目指すナショナリズム・保守主義思想があります。

この思想の代表者としては、イワン・イリインが挙げられます。イリインはユーラシア主義と対立する思想家です。しかし、彼は独創的な思想家であるとは言えません。新しい考えを何も提示してはいないのです。哲学者としての彼は無能な人物です。イリインがプーチンへ与えた影響も限定的です。イリインは反共産主義者でしたが、プーチンはそうではありません。イリインはプーチンに思想的な影響を与えたというよりも、国内をまとめる技術を提供したに過ぎません。彼の思想は教養のない人々に向けた、教養のない人間によって生み出された思想なのです」

つまり、イリインの思想は権力に素直に従う人々を生み出すための道具というわけだ。ドゥーギンによればこれがプーチンの哲学思想の第2の層である。

第3の層として、ドゥーギンはジャン・パルビュレスコの著作や、ジャン・ティリアートの革命的ナショナリズム運動との交流から導き出した考えを披露している。キリスト教を土台とした保守主義連合への野望だ。

「プーチンはヨーロッパのキリスト教国同士の連合を実現させたいと願っています」

この野望の元となったのは、ロシアの哲学者ウラジーミル・ソロヴィヨフが提唱したとされる「保守主義的ユートピア」という概念である。

その理想は、キリスト教の価値を再認識したヨーロッパの伝統的な国々が集まり、「反キリストに戦いを挑む」ことである。それだけではなく、「ロシアがそれらの国々を主導して戦いを展開していく」必要があるというものだ。

セルビア・ベオグラード、2014年3月9日。セルビアの民族主義政党の支持者は、プーチンの写真を持っている
写真=iStock.com/Leko975
※写真はイメージです

最も重要な「第4の層」

ドゥーギンによれば、次の第4の層こそが最も重要なものである。

それこそがユーラシア主義なのである。

ユーラシア主義は、「他のイデオロギーとは全く別のものです。この理想はスラブ主義、特に第2世代スラブ主義と呼ばれる、コンスタンチン・レオンチェフやニコライ・ダニレフスキー、そして作家のドストエフスキーの思想が元になっています。

しかし、ユーラシア主義はスラブ主義よりも完成されたものです。ユーラシア主義の思想家たちはロシアの文化をより理論的に、より知性的に研究しています。ユーラシア主義はロシアの歴史の最も奥深いところにまで響く思想です。それは白軍や赤軍、帝政支持や社会主義、どんな立場にも当てはまる要素を持っています」

彼によると、ユーラシア主義は、歴史上のどのような時代にも有効な思想である。

「アメリカを中心とした西側諸国とユーラシアとの対立が激しさを増している中で、ユーラシア主義の思想は最も現代性のあるものなのです」

ドゥーギンによれば、プーチンは、ソビエト人としての心性、イリインの反共産主義・帝政支持、キリスト教に基づいた保守主義、そしてユーラシア主義、これらの要素を併せ持っている。