風の歌詞はダメな自分も小さい自分も認めてくれる
正直、「若い女性が多いんだろうな、自分のようなにわか中年女が来ちゃって浮かないかしら」と思っていたのだが、会場を見渡すと案外年齢層高め。白髪の老夫婦もいれば、子連れママもいる。ざっくりだが40代が多いかもという印象。「風の全方位的引力、やば。」と思った次第。
席は後ろの方だったが、途中ゲストで登場した山田健人監督とエリザベス宮地監督により、生の映像がスクリーンに大写しに。風の表情も、きらりと光る汗もしかと拝見。
ミラーボール登場でカラオケ状態という演出はあったし、観客の心の中はおまつり状態なのだが、全体的にはゆったりとした時間が流れていく。大きな仕掛けや派手な演出など特にない。それでも微風が観客の心をほぐしていく。
観客に語り掛ける言葉は優しさにあふれていた。風自身もコロナに感染して復活したタイミングのライブで、今は「規則正しい生活を送っている」と言う。
正確な文言は忘れたが、「お天道様が出たら起きて、沈んだら寝る。心も体も健康で過ごして、自分を愛して、大切にしてあげてください。その愛はまわりに伝わるはず」的なことを言っていた。一緒に行った女友達の心にダイレクトに刺さったようで、ちょっと涙ぐんでいた。鼻をすする音で気づいたのだが、風よ、その優しさには人を虜にしてしまう罪の香りがするよ……。
もはや「風」教の教祖と書こうと思ったが、今のご時世それでは、怪しくなってしまうのでやめておこう。
実は私も救われた。ものすごく頑張っても報われないことがあって、人を呪いそうになっていたから。藤井風の歌詞は、「癒される」とか「優しい気持ちになる」だけではない。「あるがままでいい」という1本の筋が通っている気がする。
紅白でも歌った「燃えよ」の歌詞は、怒りで埋め尽くされそうになった私を凪の状態に戻してくれた。一言でいうなれば「自己認容」。ダメな自分も小さい自分も、ゆるしてみとめる、みたいな感覚だ。
というわけで、1回ライブに行ったくらいで調子のっちゃって、ファン気取りで原稿を書く幸運に恵まれたのだが、音楽に無縁の中年が魅了された理由はおわかりいただけましたでしょうか。怒りっぽくなったり、落ち込みやすくなった中年の皆さんにはさりげなくお勧めしたい。とりあえずYouTubeのライブ配信を。