日本では斬新なビジネスモデルが理解されず…

児玉は広島どころか日本を飛び越え、VC大国のアメリカでチャンスをつかんでいる。

ラクサスが高級バッグのサブスクリプションサービスを開始する1年前の2014年のことだ。彼は東京へ頻繁に出張し、資金調達に向けて1年間にわたって数々のピッチ(投資家相手のプレゼン)を行っていた。洋服が使い放題のシェアリング(共有)を目玉にしたところ、まったく関心を持ってもらえなかった。ならば洋服ではなくバッグでどうか……やはり駄目だった。

ラクサスのビジネスモデルは斬新だった。ルイ・ヴィトン、エルメス、シャネル――。会員は月額6800円払えば、好きなバッグを無制限に使い放題で楽しめる。自由に交換できるし、汚れたり傷がついたりしても無料で対応してもらえる。

月額定額制で60ブランドのバックが使い放題となるラクサスのサービス(ラクサス公式サイトより) 

新サービスは2015年2月にスタート。順調な滑り出しを見せたものの、追加的なインフラ投資なしでは限界に突き当たりかねなかった。言い換えれば、ラクサスは外部資金を調達する必要に迫られていた。

ところが、である。児玉がどんなにピッチに力を入れても、日本の投資家はそっぽを向いたままで、なかなか首を縦に振ってくれなかった。ラクサスのビジネスモデルが斬新すぎて、理解できなかったのかもしれない。

アメリカでの救世主に「今でも感謝しきれない」

そんなとき、救いの神がアメリカで現れた。シリコンバレーを本拠地にするVC「ワールド・イノベーション・ラボ(WiL)」だ。児玉は「今でも感謝しきれない」と話す。

「このビジネスモデルならうまくいくんじゃないかな」――。

ラクサスに可能性を見いだしたのはWiL共同創業者の一人、松本真尚だった。ヤフーの元最高新規事業責任者(CIO)であり、ソフトバンクグループ創業者である孫正義の右腕として活躍したことで知られている。

新サービス立ち上げから8カ月後、WiLはラクサスの第三者割当増資を引き受け、総額3億円を出資することで合意した。松本も含めWiL共同創業者3人はそろって日本人であり、日本人起業家を支援することに熱心だ。

「誰もが『分からない』『何なのそれは?』と言っているときがチャンス。逆に誰もが『賛成』『異議なし』と言っていたらもう遅過ぎます」と児玉はみる。誰からも相手にされないからといって諦めてはいけない、ということなのだろう。