上場廃止に加え、約1600億円の制裁金が科された企業も
より大きな問題に直面するのは香港に鞍替えできない企業だ。香港市場の上場に必要な条件は米国よりも厳しい。中国経済誌『財新』によると、香港での同時上場の条件を満たしている中国企業は59社しかないという。
香港市場のハードルの高さが課題になった企業として、中国配車アプリ大手ディディがあげられる。同社は2021年に米ニューヨーク証券取引所に上場した。株式市場での米中対立が深まっている時期であり香港でのIPOも検討されたが、それには応じられない理由があった。というのも中国の配車アプリ規制はいまだグレーゾーンの部分が大きい。
そのためディディは中国の一部地域での配車アプリ営業許可を取得できていなかったが、香港に上場する場合には許可未取得の地域での売上は計上することができないという規則があった。その分、株価は安く評価されてしまう。そこでリスクを承知で米国での上場に踏み切ったわけだが、中国政府は想像を超えた怒りを示し、米市場での上場廃止と80億元(約1600億円)の制裁金という手痛い処罰を下されることとなった。
中国のイノベーションを支えてきた米国市場
ディディと同様、IPOというゴールを目指す無数の中国ベンチャー企業にとって、米市場が閉ざされるダメージは大きい。
近年、中国経済の成長は世界の注目を集めてきたが、それはGDPの成長だけが理由ではない。新たなアイデア、技術を実現するベンチャーが次々と誕生し、飛躍していくダイナミズムが評価された側面も大きい。ほんの10年前ならば、「図体はでかいが、私的財産が守られない社会主義国では本当のイノベーションなど生まれるはずはない」と見られていたのが、最近では「中国=イノベーション大国」という図式はむしろ常識となった。
この中国イノベーションを支えてきたのは、米国市場から生み出されるマネーであった。過去40年間にわたる米中の蜜月が中国台頭の原動力であったわけだが、それは企業の成長という点でも共通している。