外資の導入を可能にしてきた「VIEスキーム」という“裏技”

もともと社会主義国として外資の導入には厳しい制限をかけてきた中国だが、“裏技”を使ってまでも外資受け入れを続けてきた。その裏技とは契約支配型ストラクチャーと呼ばれるVIE(変動持ち分事業体)スキームである。

複雑な手法だが、ごくごく単純化して説明すると、上場している法人と実際に企業活動を行っている法人との間には資本関係はなく、契約関係によって支配している。

アリババを例にあげると、上場しているアリババグループ・ホールディングス(登記地はケイマン諸島)と、実際に中国で事業を行っている浙江淘宝ネットワーク、浙江Tモールネットワーク、アリババクラウド・コンピューティングなどの企業との間に資本関係はない。

資本的にはまったく無関係の別会社であるが、「議決権はアリババグループ・ホールディングスに委託する」「技術コンサルティングの対価として利益を支払う」といった契約を交わすことにより、あたかも同じ企業であるかのように振る舞っている。ただ、よくよく考えてみると、私たちがアリババ株だと思って買っているものはほとんど従業員もいないようなケイマン諸島の会社であり、あの立派な本社や無数の従業員を擁する中国の大企業とは別の会社なのだ。

アリババ本社
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なんとも不思議な話だが、この七面倒臭い仕組みをつくることで、「外国人株主が多くを占める海外上場の中国企業」が中国国内で外資参入を禁止されている事業を行うことがお目こぼしされてきた。中国政府は関連規定を整備するなど、このVIEスキームを“今は”容認する姿勢を保っているが、未来永劫その態度が変わらないかは不明である。

中国企業の判断が変われば厳しい処罰を受ける可能性がある

アリババの財務報告書には、もし中国政府が判断を翻し、アリババが外資規制に違反して中国国内でのインターネット事業を行っていると判断した場合、「事業停止を含めた、厳しい処罰を受ける可能性がある」とのリスク提示も行われている。

このVIEスキームを初めて活用したのは、2000年のシナドットコム(新浪網)の米ナスダック市場上場だった。以来20年あまり、この不透明でリスキーな“裏技”が続いてきたのは、ひとえに中国政府が米市場のマネーが中国企業の発展、ひいては中国経済の発展にとって大きなメリットだと判断したからであり、また米国側も自国の金融業の発展にプラスだと判断したからであった。

いつかVIEスキームが違法とみなされるのではないか。そうした不安は常に存在してきたわけだが、予想外にこの裏技ではなく、会計監査という別の切り口から米国市場から中国企業株が排除されるリスクが高まっている。