中国経済に深刻な影響を及ぼす「米国市場への上場問題」
中国は一貫して“時間は自分たちの味方”と見なしてきた。経済成長や技術開発のペースは米国を上回っている。時が過ぎれば過ぎるだけ、中国にとって有利な国際環境が得られるというわけだ。この時間を稼ぐため、米国との決定的な対立を避けてきた。
しかし、ついに米国も中国台頭を脅威と感じ、対立は緊張の度合いを増している。その角突き合いは軍事、外交にとどまらず、技術やサプライチェーンといった経済分野にまで拡大している。そうした対立局面の一つが「米国市場における中国株上場」だ。今や多くのグローバル企業、イノベーション企業を輩出している中国だが、その成長は米株式市場に支えられてきた。今、そのドアが閉じられる可能性が高まっている。
もし、米株式市場から中国企業が排除されたならば……、その影響は既存の上場企業にとどまらず、“未来”の中国イノベーション企業の芽を摘み取ることに直結する。
「上場廃止警告リスト」に追加されたアリババ
米証券取引委員会(SEC)は7月29日、米ナスダック市場に上場している中国EC(電子商取引)最大手アリババグループを上場廃止警告リストに追加した。発表を受け、アリババ株は一時、10%以上も値を下げるなど、マーケットは大きな衝撃を受けている。
問題はアリババだけではない。SECは今年3月から上場廃止警告リストの更新作業を始めているが、7月29日発表時点で159社がリストに掲載されている。検索大手バイドゥ、ソーシャルメディアのウェイボー、ECのJDドットコムとピンドゥオドゥオ、動画配信サイトのビリビリ、EV(電気自動車)の理想汽車など、中国を代表する企業がリストに名を連ねている。
この上場廃止警告リストは2020年末に成立した外国企業説明責任法(HFCAA)に基づく措置だ。米国に上場している中国企業の決算報告書を監査している監査法人は、米国公開会社会計監視委員会(PCAOB)による資料の確認や立ち入り検査を受け入れる義務があったが、中国政府は検査を拒否するよう指示してきた。
中国の監査法人は立場が弱く、他国と比べても企業に丸め込まれて粉飾決算を見逃す不正に走りがち。以前から指摘されていた話だが、米国に上場した中国企業の粉飾決算が明るみに出て、投資家に多大な損害をもたらした事件は少なくない。2020年には「中国版スタバ」と呼ばれた喫茶店チェーンのラッキンコーヒーが、22億元(約440億円)もの架空売上を計上していたことが発覚。新規株式公開(IPO)からわずか13カ月で上場廃止になるという事件もあった。
中国株の上場は米金融業界にとっては大きなビジネスだけにお目こぼしされ続けてきたが、米中対立が深まるなか、ついに米政府も重い腰を上げ、HFCAAの成立にいたった。