オスにとって最大の問題は「メスの数の不足」

これは一見したところ、オスのペンギンはSNAG(新世代の繊細な男性)の原型のように映るのではないでしょうか。妻のために尽くし、片親相当分よりも多いくらいの家事をこなし(ペンギンの多くの種では、抱卵の大半をオス親が分担します)、子供を危険から守る、といった具合です。

でも実のところ、彼らはSNAGの仮面をかぶったオオカミにすぎません。白黒のエプロンを脱がせてしまえば、そこにあるのは、ベイトソンが研究したショウジョウバエが示したのと同じ、原始的な衝動のみです。一雌一雄制とは、ハンドブレーキ程度の役割をしているだけで、ペンギンとして、地球上に存在するできるだけ多くのメスと交尾したいという欲求を、失わせるというよりは遅延させるくらいのものにすぎません。

オスのペンギンには、他の動物でもたいていそうですが、違いがわかる、ということがほぼありません。彼らの考えつく繁殖戦略と言えば、巣を構える場所を確保し、自身の求愛コールが届く範囲にいるメスであれば誰でもいいから交尾する、というやり方です。オスにとって大問題であるのは、どうにもメスの数が不足してしまい、求愛コールに応えてくれる相手を見つけられないオスが大勢いる、という点です。

繁殖経験回数に比例して外敵に襲われるリスクは高まる

これには、理由が二つあります。第一に、卵の段階ではオスとメスの数に差はないのですが、メスはオスに比べて短命なのです。繁殖を開始する年齢もメスのほうが早く、そうなると、子を持つ親であれば誰もがご承知でしょうが、その分、寿命が縮まるのは必至です。ヒナを危険から守るために身を粉にする必要があるだけでなく、ヒナに与える餌を採りに定期的に海へ出向かなければならず、外敵に襲われるリスクが高まるためです。

南極地域で繁殖するペンギンは、ヒョウアザラシに食べられることがよくあり、海氷のふちで海へ入る、あるいは海から出るときには特に狙われやすくなります。この危険な境界線を、繁殖期のペンギンは、繁殖していないペンギンに比べ1シーズン中に最大40回も多く、行き来することになりますから、ヒョウアザラシのおやつになる確率もずっと高くなります。

メスの数がいつも不足してしまうもうひとつの理由は、ほぼすべてのオスが、メスよりも先にコロニーに現れる、ということです。町で行われる唯一の試合で少しでも勝率を上げようと思ったら、先に来ていなければ話になりません。