“元カノ”が現れてメス同士で大喧嘩になるパターンもある
ペンギンの夫婦関係が長続きするかどうかに影響するもうひとつの要素は、繁殖に費やすことができる期間の長さです。この点は、高緯度で(すなわち南極点に近づくほど)、子育ての季節である夏が短い地域に暮らすペンギンでは特に重要です。過去の実績がどれだけよいオスであったとしても、メスはいつまでもオスを待ち続けるわけにはいきません。
そこでメスは、そばにいるオスと結ばれることを選択します。アデリーペンギンのメスは、繁殖期の開始時にコロニーに到着すると、数分とはいかないまでも、数時間以内には交尾を成立させてしまいます。到着時に前年と同じオスが見当たらなければ、近くに居合わせたオスのどれかと交尾してしまうのです。そうすれば、実績はあるがのろのろしている前年のオスが、もしも遅れてやって来たら、メスは新しい彼を捨てて、元のさやに納まってしまえばよいのです。
このような性的実用主義は、それ自体が問題のタネとなることがあります。もしも新しい彼の前年のパートナーであるメスが遅れてコロニーに現れ、彼を横取りされてしまったことを知れば、そのメスは新しい関係に異議を申し立てる可能性が高く、フリッパーで猛烈な連打を浴びせてライバルのメスを追い出してしまい、全工程を一からやり直しにしてしまいます。ペンギンのコロニーで繰り広げられる求愛行動は、椅子取りゲームそっくりとしか言いようがありません。
“ご近所不倫”すら存在するペンギンのコロニー
結論を言うと、ペンギンのコロニーではスワッピングが盛んに行われることが珍しくありません。ペンギンにとっての一雌一雄制とは、一羽の相手と生涯連れ添うという意味ではなく、ある時点においては一羽の相手とのみつがいを形成する、ということなのです。
ただ、この表現も厳密に言うと正確ではありません。ペンギンの交尾行動を詳細に調査すると、正式なつがい相手を確保していながら近所のオスとささっと浮気するのを悪く思わないメスが数羽はいて、中にはメスのほうから関係を迫ったと言われても仕方ない事例もあります。
悪ふざけにも見えるこうした行動には、潜在的な欠点があります。オスのペンギンが抱卵と育雛のためにつぎ込む労力は膨大なものです。もしもメスの生殖器内に複数のオスの精子が漂っていたとしたら、オスとしては、さんざん苦労して実は他人の子を育てていた、などというエネルギーの浪費を、確実に避ける方法などあるでしょうか? ダーウィンには頭の痛い話でしょう。
そこでオスは、そのような無駄骨を折る可能性を最小限に抑える行動に出ます。正式な夫婦関係に加え不倫も繰り返して、2週間かそこら過ごすと、メスは一腹(ペンギンの場合、メスが一度に産む卵の数のこと。キングペンギン属は1個、それ以外の種はふつう2個である)で2個の卵を、通常3日ほど間隔を空けて産みます(ただし、キングペンギンとエンペラーペンギンでは卵は1個だけです)。「愛への讃歌」の歌でクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングが言い忘れたことは、後になって、その愛の結晶という大きな課題に取り組まなければならなくなる、ということです。