安倍派新リーダーは岸田総理が育てていく

安倍氏が岸田内閣となって以降も、100人弱を抱える安倍派を抱える派閥の会長となったことで、内閣に物申すキングメーカーであったことは周知のことである。

「防衛費対GDP比2%」や「積極財政」「核シェアリング」など国を二分するテーマを次々とぶち上げ、党内議論を活性化させ、自分の力を誇示し続けた。岸田総理からすると目の上のたんこぶである一方、安倍氏と率直に意見交換すれば党内の保守をまとめることができるとの安心感もあっただろう。

だが、安倍氏がいなくなったことで、次の安倍派は誰がリーダーとなるのか混沌としている。

清和会も宏池会も平成研も人数が増えては分裂するという歴史を繰り返している。かつて安倍氏は、2017年に自らの後継者として、「下村、松野、稲田」の3人の名前を挙げていたが、岸田の後は安倍といった声が安倍派に多かったように、しばらくは安倍派においても安倍一強体制が続くとみられていた。

今回の人事は、忠実に安倍氏の意向を反映させ、いまだ、安倍派にも影響力を持つ森喜朗氏の意向にも沿う形となっている。安倍氏は、2021年ごろから、稲田氏のLGBT推進や選択制夫婦別姓の議論に対し、「彼女は変わってしまった」として距離を置くようになったという。一方で、西村康稔氏や萩生田氏を高く評価し、派内でも後継者の一人として目されていくようになる。そのため、岸田総理もそうした背景を理解した上で人事に挑んだ感がある。

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引き続き、官房長官を担う松野氏はリーダー候補の一人であるのはもちろんのこと、経済産業大臣として西村康稔氏を入閣させ、原発再稼働やGX(グリーントランスフォーメーション)といった今後の岸田政権の目玉となる政策を担当させる。

政調会長となった萩生田氏に対しては、党内で意見が割れるだろう「積極財政」や「防衛費のあり方」についての調整力を期待していると見られる。

しかし、下村氏は旧統一教会の名称変更時の文科大臣でもあり、森喜朗氏の次のリーダー候補の名前にも挙がっておらず、外されたのだろう。

萩生田氏は、経済産業相の続投を望んだが、政調会長となった。記者会見で「自分は骨格ではなかったのか」とのせりふは、安倍派の次なるリーダーとしての自負の表れだろう。事実、改造前に人事の申し入れを行った閣僚は萩生田氏のみであり、われこそがという気概もその行動、言動から感じられた。

岸田総理は、萩生田氏を高く評価していると私自身も感じる。しかし、そこはあえて、亡き安倍氏の残された「遺言」を忠実に守ること、すなわち、「松野、西村、萩生田」の中で誰かを優遇するのではなく、平等に扱うことで、安倍派の安定化を図ること、さらには、岸田総理自身の立ち位置を明確にし、安倍氏の代わりになる親分は自分だということを誇示したかったのではないかと推察できる。