事例1 墨田区の町工場発の「マークスアンドウェブ」
自然由来の石鹸やシャンプー、スキンケア用品、化粧品などが人気の「マークスアンドウェブ」は、下請け専業から自社ブランドを成功させ、「まるで欧米ブランド」で町工場の常識を覆したヒット事例だ。
マークスアンドウェブを展開する松山油脂は、1908年に東京都墨田区で創業され、雑貨商に始まり、戦後からはずっと大手の下請けとして固形石鹸を作る町工場を続けてきた。しかし、1980年代以降、大手が低コストの海外製造へシフトを進めると、業績は低迷し、4代目が廃業を視野に入れた頃、後を継いだ5代目の現社長が自社ブランドの立ち上げに踏み切った。
「作る」も「売る」も自ら決められない下請け専業の立場から抜け出すため、自社の強みである釜焚き製法と無添加のモノづくりにこだわり、1995年に初の自社ブランド「Mマークシリーズ」を立ち上げた。100時間をかける釜焚き製法によって天然の保湿成分を保った低刺激の石けんを、ロフトの店頭の販売員へ試供品として配り、「顔を洗える石けん」と伝えて品質を実感してもらった。すると評判を呼び、販売員からバイヤーの手に届き、商品を気に入ったバイヤーからの連絡で取引が実現した。ロフトから東急ハンズ、ナチュラルハウスなど次々に販売を拡大していくことに成功した。
しかし、Mマークシリーズが軌道に乗っても、既存の取引プロセスでは、なかなか小さな町工場としての強みを発揮しにくかった。意思決定や行動の早さを活かし、顧客の声・ニーズを直接感じ取ってすぐに次の商品開発に反映させるためには、新しい売り方が必要だった。そこで、商品が顧客の手に届くまでに卸・小売・販売員などが間に入らない、直営店ビジネスを2000年からスタートした。そのための新ブランドが、自分たちが自信を持って作ったお気に入り(マークス)を広める(ウェブ)という意味を込めた「マークスアンドウェブ」だ。
欧米ブランドらしさと日本製らしさの二面性がファンの心を掴む
マークスアンドウェブは、自然の草花から抽出した精油をブレンドし、安全で、環境に負荷を与えない、ヨーロッパのハーブ文化への憧れをこめた「まるで欧米ブランド」と言える。パッケージの商品名や説明書きはすべて英語表記で、欧米ブランド流のデザインをまとっている。その一方で、広告・販売のコストを抑え、毎日使える価格で提供するコストパフォーマンスに優れた商品づくりが徹底されている。
欧米ブランドのようにオシャレでありながら、日本製ならではの信頼性と安全性、使いやすさを併せ持つ。その二面性でファンの心を掴んでいった。東京駅前の丸の内ビルディングにわずか1.25坪で出店した1号店が評判を呼ぶと、リピーターを増やし、クチコミでファンを広げた。直営店は全国約80店舗まで拡大し、2021年のグループ全体の売り上げは92億円で、下請け専業から抜け出して以来、売り上げを20倍以上に伸ばす成功を収めている。