ストレス=悪者ではない

一方で、「ストレス=悪」ではないことも強調したい点です。

ストレス学の始祖であるハンス・セリエは、「ストレスは人生のスパイスである」と言っています。要はバランスの問題です。

「ストレス過多」も問題ですが、「ストレスが少なすぎる」状態、仕事に飽きてしまったり、裁量ややりがいのないことや、能力に対して簡単すぎることばかりやりすぎている状況も、実は生産性を下げ、心身に悪影響を与えていることが知られています。

こうした状態を「アンダーストレス」と言いますが、テレワークによる代わり映えのしない環境やコミュニケーション刺激の減少が、このアンダーストレスに拍車をかけているかもしれません。

テレワークは「やり過ぎ注意」だが役に立つ

ここまでテレワークの注意点を中心に解説してきましたが、テレワークは基本的にストレスを軽減させる可能性が高い点は、強調しておきたいです。

今回の調査でも、テレワーク勤務をしていない人を含む、ビジネスパーソンを対象にした調査と、週1日以上テレワーク勤務するビジネスパーソンを対象にした調査を比較した結果、高ストレス者の割合自体は、20%ほど減少しています。

さまざまな要因が考えられますが、テレワークの普及によって、転職なき移住や、ワーケーションが容易になったことも、要因の1つとして考えられます。

パーソル総合研究所の地方移住経験者を対象にした調査では、移住に伴って「転職はしなかった」が最も多く53.4%、移住に伴う年収変化では、58.6%が「変化なし」18.0%は「増収した」と回答したことが明らかになっており、テレワークにより地方移住のハードルが下がっています。

一方で、千葉大学環境健康フィールド科学センターの研究では、森林内では都市部と比べ唾液の中のコルチゾールという抗ストレスホルモンの濃度が減少し、心拍数が低下するなど、副交感神経活動が昂進する効果が確認されており、こうした効果が確認されている森林へのアクセスが、移住やワーケーションで容易になった点は見逃せません。

また、テレワークによって、通勤ラッシュから解放された人が多いのも、要因の1つとして考えられます。

通勤者とパイロットや警官の心拍数、血圧を比較した調査では、臨戦態勢の戦闘機のパイロットや機動隊の隊員よりも会社に通勤する人の方が強いストレス反応が見られたとの報告があります。ラッシュ時の通勤者のストレスの重大さを再確認するとともに、これを避けられるメリットの大きさは計り知れないものがあるでしょう。