「コンビニおにぎり」も最初は反対から始まった
みんなが賛成することは、たいてい失敗し、逆にみんなが反対することは、たいてい成功する。
セブン‐イレブンでのおにぎりや弁当の販売もそうです。初めは、「おにぎりや弁当は家でつくるのが習慣だから売れるわけがない」と反対されました。
それに対し、わたしは、材料の質と味のよさを徹底的に追求して、家庭でつくるものと差別化していけば、お客様は「コンビニでおにぎりや弁当を買う」という、これまでにない体験に利便性という価値を見出すだろうと未来の可能性が見えたことで、販売を始めました。
セブン銀行を設立するときも同様でした。流通業が自前の銀行を設立するという、前代未聞のプロジェクトに対し、金融業界を中心に、「銀行が次々経営破綻しているなかで新規参入しても絶対無理だ」「銀行のATMも飽和状態にあるのに収益源がATMだけで成り立つはずがない」という否定論がわき上がりました。
メインバンクの頭取がわざわざ来訪されて、「銀行をつくるといっても、そんな簡単なものではないですよ。わたしたちが(メインバンクとして)ついていて、失敗させたことになり、笑いものになります。だからおやめになったほうがいいですよ」と、親切に忠告されたこともありました。
否定論は総じて、銀行についての既存の定義を前提としたものでした。一方、わたしは、「コンビニにATMがあったら、お客様にとっての利便性が飛躍的に高まる」という未来の可能性が見えたことから、決断しました。
「本当はそうであってほしい」を探り当て、挑戦する
金の食パンの開発も、過去の経験の延長線上では出てこない発想でした。きっかけは、わたしの素朴な疑問でした。食パンは日本の食事パン市場の約6割を占めます。セブン&アイグループでも、NBの売れ筋商品のほか、PB商品も販売し、販売成績も順調でした。
ただ、わたしはその味にけっして満足していませんでした。世の中のパン専門店や高級レストランでは、もっとおいしいパンが売られ、提供されていました。
そこで、「コンビニで毎日のように買う食パンについても、お客様はもっとおいしいパンを求めているのではないか」「多少高くても、より質の高い食パンを提供すれば、お客様に価値を感じてもらえるはずだ」と、未来の可能性に目を向けて発売したものでした。
金の食パンのヒットは、食パンのマーケット全体にも影響を及ぼし、街には高品質の食パンを扱う「食パン専門店」が登場し、大手NBメーカーも高価格の高級食パンを発売するなど、高級食パンブームの火付け役になったのです。
目を向けるなら未来に向ける。人々が本当はそうあってほしいと思っているであろうこと、あるいは、思いながらも難しいなと戸惑っていたり、懐疑的になっていることは何かを探り、積極的に挑戦すべきです。