木を見て森を見、森を見て木を見る

仮説を立てるときには、「お客様の立場で」考え、未来から発想しなければなりません。もう一つ必要なのは、ミクロとマクロ、木と森の両方に目を配ることです。

コンビニでの商品の発注も、発注者は担当する商品だけを見ていればいいのではありません。商品というミクロだけでなく、ミクロをとおして、お客様の傾向や地域の特性、マーケットのトレンドといったマクロをつかみながら、売り場全体でどのような品揃えで対応していくかと、ミクロへ落とし込んでいかなければ、お客様の期待を超えることはできません。

日々の仕事で実際に手を打つのはミクロですが、ミクロをめぐるマクロの視点をもたないため、仮説をうまく立てられない例がよく見られます。

さまざまなミクロの出来事を見て、マクロのトレンドをつかみ、そこからミクロに落とし込んでいく。「木を見て森を見ず」といういい方がありますが、木を見て森を知り、森を知って、その中にどんな木があるべきかを考えるのです。

“専門店は別の世界”と思っていては生まれなかった

大ヒット商品となった金の食パンは、「お客様はもっとおいしい食パンを求めているのではないか」という仮説が出発点です。この仮説もマクロとミクロ、両方の視点から生まれたものでした。

マクロの視点で、常に押さえておかなければならないのは、世の中やマーケットのトレンドです。そのとき、目安になるのは、「上質さ」を志向する方向性と、価格の安さなど「手軽さ」を志向する方向性というトレードオフの2つの座標軸です。

【図表2】「上質さ」と「手軽さ」のトレードオフ

金の食パンが発売されたのは2013年4月で、当時、食パンでは低価格競争が続いていました。食パンは従来からスーパーなどでは特売が多く、低価格帯の食パンでは一斤100円を切る価格も珍しくありませんでした。

一方、前述したように、専門店や高級レストランでは、よりおいしいパンが一斤300~400円でも人気を博していました。そのことは、製パンメーカーも、流通業も、誰もが知りうる事実でした。このミクロの商品の動きを「専門店は別の世界」ととらえれば、その先には進めません。

わたしは、「食パンという毎日食べるものについても、多少高価格であっても高品質のものを食べる心の満足感をお客様は求めている」とマクロのトレンドを読みました。そして、「上質さ」と「手軽さ」のトレードオフの座標軸で見たとき、コンビニの品揃えでは、そこが空白地帯だったので商品を投入し、ヒットに結びつけたのです。