8分の遅刻で犯罪者のような扱いに…

「寝坊すると1年昇進しない」新入社員の頃によく聞いた噂が頭をよぎる。

でも明日が合格発表なら結果はもう決まってるんじゃないのか? そもそも数分の遅刻くらいなら遅刻にカウントされないのではないか? など、様々な思いが頭の中を駆け巡る。

綿貫渉『怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン 小さな事件は通常運転です』(KADOKAWA)

「申し訳ありません。大変遅くなりました」

無事に職場に着いた。時刻は9時08分。8分の遅刻である。正面から上司に謝罪する。起きたら8時58分だった時点で言い訳のしようがない。

「おい綿貫、お前は何てことしてくれるんだ」

謝っても怒られる。上司としても、部下が遅刻することで、会社からの評価が下がったり、報告書の作成で余計な仕事も増える。特に、この駅では何年も遅刻した人はいなかったので、顔に泥を塗られた気分だろう。

私は犯罪者のような扱いになってしまった。

さすがに8分遅刻で犯罪者扱いはやりすぎじゃないかとも思うものの、それがルールと定められているのは私も分かっていた。世の中の犯罪が法律に基づいて厳正に裁かれるように、社内での不祥事も賞罰規定に基づいて厳正に裁かれる。これが結局公平なのだ。

ほぼ全員合格する車掌試験に落ちた

遅刻して怒られるのは良い。給料もその分だけ減るようだ。後で給料明細を見たら200円くらい引かれていた。しかし重要なのは車掌試験の結果だ。

車掌試験の内容は筆記試験と面接だ。十分対策をして臨んだので万全の出来であるという自信がある。筆記と面接だけで判断してくれるのであれば、受かっているはずだ。そんなことを考えながら、泊まり勤務をこなす。

翌日の朝9時過ぎ。同僚と交代し、複雑な思いを抱えながら24時間の勤務が終わった。駅長に呼ばれる。どうやら車掌試験の合格発表があるようだ。

「綿貫君の車掌試験の結果が先ほど届いたんだけど、残念ながら不合格だよ」

8分の遅刻により、もう1年駅員をやることが確定した。

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