英タイムズ紙は5月、英政府による予測をもとに、ガスの供給逼迫ひっぱくによりガス発電所の運転が停止し、平日午前と夕方などピーク時に計画停電が発生する可能性があると報じた。さらに、欧州へのガス供給が完全に停止した場合、12月からの3カ月間にわたりイギリスの広域で停電が発生する見込みだという。

NATOの結束が強固になったいまも、市民生活がロシアの人質に取られているのは手痛いところだ。

欧州を目覚めさせたプーチンの大誤算

プーチンを囲う壁は、長く強大になりつつある。直接決戦に備えよとの号令がかかったイギリスだけでは弱みもあるが、予想を超えた連携をみせるNATOを前に、プーチンは次の一手の慎重な選択を迫られている。

スウェーデンとフィンランドのNATO加盟手続きの開始も大きな動きだ。これまで北欧2カ国を「テロ組織の温床」と揶揄やゆし、実質的な拒否権の発動をほのめかしてきたトルコさえ、テロ対策の実施を条件に両国の加盟を容認する姿勢に転じた。

米『USニューズ&ワールドリポート』誌は、「プーチンはまた、かつての友好国からも距離を置かれていることに気づくだろう」と論じている。

加盟が実現すればロシアがNATO諸国と接する国境に、約1300キロという長大なフィンランド国境が加わる。プーチンはNATO加盟自体には反対しない姿勢だ。ただNATOの部隊が展開したり、軍事インフラが置かれたりした場合は同様の対応をせざるを得ないと警告した。ロシアとしてはウクライナへの「特別軍事作戦」に兵力を奪われるなか、新たに国境警備の強化を迫られた格好となった。

バイデン氏が「NATO化」と形容するように、ロシア軍によるウクライナ侵攻は欧州を目覚めさせ、軍拡路線への大転換を誘発した。ウクライナを越え、ロシア軍が一歩でもNATO域に足を踏み入れればロシア軍を一掃する――。イギリス軍やNATOの姿勢は、この強烈なメッセージをプーチンに発したように見える。

ウクライナ侵攻はまさにプーチン自身を苦しめる結果となった、大いなる誤算といえるだろう。

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