今後、ウクライナ軍が巻き返す展開も不可能ではないだろう。東部でのウクライナ軍の苦戦は、主に武器弾薬の不足に起因するものだ。バイデン政権が提供した高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」の第1陣が早くもウクライナに到着し、実戦に投入されている。米国防省高官は6月27日、ウクライナ軍がHIMARSを「非常にうまく活用している」とみられるとの認識を示している。
核をほのめかすプーチン、国営TVは「一発でイギリスを破壊」と挑発
だが、刻々と強固になるNATOの包囲網を前に、プーチンは核のカードを考慮に入れはじめているとの指摘もある。米『USニューズ&ワールドリポート』誌はNATOの発表後、「NATOの『歴史的』かつ『変革を起こす』新たな動きに、報復を誓うロシア」との記事を掲載した。
記事は「ウクライナ作戦のしくじりにより、NATOの劇的な新展開に対してロシアが打てる手は少なく、より危険なものになっている」と指摘する。
失態続きのロシア軍が政府の大きな負担になっていることを挙げ、それだけに「クレムリンとプーチンは、核兵器への言及など、より敵意に満ちた態度を取らざるを得ない」と論じている。
ロシアはまた、核弾頭を搭載可能な次世代大陸間弾道ミサイル「サルマート」の年内配備を計画している可能性があるという。テレグラフ紙によるとロシア国営TVは、「一発でイギリスを決定的に破壊」可能だと挑発している。
イギリス軍の焦り、シミュレーションでは8日で弾薬尽きる
核を除く通常兵器に関しても、イギリス単独の軍事力には多少の不安が残るところだ。先述した陸軍トップの強気な発言は、軍縮を続けてきた英国陸軍への危機感を示したものと言えるだろう。
英デイリー・メール紙は昨年、コンピュータ上での大規模な軍事演習において、イギリス軍が開戦からわずか8日で弾切れになったと報じている。
アメリカおよびフランスと共同で行ったこの訓練は、どの国を敵国と定めたかなど詳細は明かされていない。しかし、10日間の戦闘シミュレーションを実施する計画であったところ、「演習からおよそ8日で、イギリス軍のすべての武器庫から、重要な弾薬が完全に使い果たされた」という予想外の展開になったという。ヨーロッパでアメリカ軍を率いた経験のあるベン・ホッジス中将が、イギリス議会の特別委員会で明かした。
軍事力とは別に、イギリス国内の生活維持という観点では、ロシア産エネルギー資源への依存も懸案だ。ロシアが供給停止に踏み切れば、イギリスは冬場に3カ月という長期間、大規模な停電に見舞われるとの予測がある。
英ニュースサイトの「ナショナル・ワールド」は、EU加盟国が2021年、ガス輸入量の45%をロシアからの輸入に依存しているとのデータを取り上げている。イギリス単独での依存度は5%と低いものの、ロシアが供給停止に踏み切れば市場価格が高騰し、影響は避けられないと記事は指摘する。