ロシア軍によるウクライナ侵攻は軍事のプロからどう評価されているのか。元陸将で陸上自衛隊富士学校長をつとめていた井上武さんは「ロシア軍は侵攻2日目あたりから主導権を失っている。まったく戦況の変化に対応できておらず、地上部隊が大損害を受けている。ロシア軍の現状は信じられないくらい未熟でお粗末だ」という――。

※本稿は、渡部悦和、井上武、佐々木孝博『ロシア・ウクライナ戦争と日本の防衛』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。

モスクワで行われた対ドイツ戦勝記念日の軍事パレードの予行演習で、「赤の広場」を行進するロシア海軍の兵士ら=2022年5月7日、ロシア・モスクワ
写真=AFP/時事通信フォト
モスクワで行われた対ドイツ戦勝記念日の軍事パレードの予行演習で、「赤の広場」を行進するロシア海軍の兵士ら=2022年5月7日、ロシア・モスクワ

侵攻から2日目で主導権を失ったロシア軍

【井上武(元陸上自衛隊富士学校長)】ひとことで言えば、ロシア軍の陸戦は杜撰な計画に加えて、攻撃開始後もまったく戦況の変化に対応できていない。普通の軍隊であれば、戦況の変化に応じて判断し、計画を修正し、必要な対策をとります。しかしロシア軍は、侵攻後も作戦をいっさい変更していません。

戦いの原則でいえば、攻めるほうは主導権をもち、所望の時期と場所に攻撃できる優位性がありますが、侵攻して2日目あたりからロシア軍は主導権を失っています。しかも、陸上侵攻は、まず、誘導ミサイル攻撃や航空攻撃で、ウクライナ軍の航空基地、対空火器、対空レーダーおよび作戦指揮組織等を徹底的に破壊し、航空優勢を獲得し、それから地上攻撃を開始するのが鉄則ですが、それをやっていない。航空攻撃と地上攻撃が、ほぼ同時でした。

キーウ制圧をかなり焦っていたので、航空優勢をとらないままに、ロシア軍は地上攻撃を開始しています。絶対にやってはいけない作戦展開です。私の現役時代の大規模指揮所演習の教訓では、対空カバーのない状況で、攻撃した戦車群が、敵の航空攻撃によって短時間で壊滅的な損害を被ったことがありました。

【渡部悦和(ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー)】ロシアのウクライナへの精密誘導ミサイル攻撃について、ミサイル失敗率が最大で60%にものぼるとアメリカ政府は分析しているとの報道もあります。ミサイル自体に不良品が多いと私は見ています。