発売ギリギリまで粘ったネーミング

同社といえば、喉の菌を殺菌する「のどぬ~るスプレー」や、発熱時におでこなどに貼る「熱さまシート」、傷口を水仕事から守る「サカムケア」など、絶妙なネーミングで知られます。

写真提供=小林製薬

耳ほぐタイムの命名も、発売ギリギリまで粘ったそう。プロジェクトメンバーがアイデアを持ち寄り、会議の席上で何度も議論。最終的には、小林章浩社長まで加わって「もっといいネーミングはないか」と、メンバー全員で頭を悩ませたといいます。

「耳栓を強調しすぎると、たぶん抵抗を感じる人もいる。逆に“耳”という言葉をまったく使わないと、どんな商品か分からない。最終的には、就寝時に耳を温めることで気持ちを“ほぐして”もらいたい、そんな心地よい“時間”を提供したい、との思いを込めて『耳ほぐタイム』に決めました」(北口さん)

なぜ、商品機能をうたう言葉を使わなかったのか

そういえば、「耳ほぐタイム」のネーミングには「睡眠(眠り)」や「寝つき」「温熱」といった、商品機能をダイレクトに表す言葉が、一切含まれていません。

もちろん薬機法(旧薬事法)との兼ね合いもあるとは思いますが、小林製薬はあえて、商品の特性(機能)より、顧客の「ココロ」や「利用シーン」、すなわち「耳をほぐす=リラックス」や「タイム(就寝時)」に注目したのです。

かつて、大ベストセラー『ドリルを売るには穴を売れ』(佐藤義典氏著・監修/青春出版社)でも語られた通り、これが飽食の時代に商品を売る際のポイント。ドリルを売りたいなら、機能よりまず顧客にとっての「価値(ベネフィット)」を訴求せよ、とのスタンスです。

すなわち、顧客がその商品を買うことでかなえたい理想とは何なのか。たとえばドリルで壁に穴を開けておしゃれな棚を吊り、そこに趣味の雑貨を飾る、など具体的な「利用シーン」を提案することが重要です。

その際に外せないのは、“誰”をターゲットと捉えるか。忘れがちですが、ここが定まっていないと、顧客のココロや理想のシーンも描けません。

そこで改めて、耳ほぐタイムの商品パッケージを見ると、30代前後と思しき女性が、気持ちよさそうに目を閉じるビジュアルが描かれています。北口さんいわく、22年6月現在、同商品の最大の購買層も、30代前後の女性だそうです。