「措置命令に従えば解決」ではない

大幸薬品は当初、法的に争う姿勢を示していましたが、一転して2022年5月、「弊社商品の表示に関するお知らせ」にて、室内空間に浮遊するウイルスや菌が除去される効果等が得られるかのように示す表示が「一般消費者に対し実際のものよりも著しく優良であると示すものであり、景品表示法に違反するもの」であると認めました(※4)

※4 大幸薬品「弊社商品の表示に関するお知らせ」(2022年5月3日)

実験室内だけではなく、実際に空間除菌グッズが使用される生活空間でも効果があると言えるデータがあるなら、大幸薬品はそのデータを示せばいいはずですが、私の知る限りではそのようなデータはありません。景品表示法違反を認めたのは、このまま消費者庁と争うのは得策ではないという企業の経営上の判断があったのではないかと思います。

そして、消費者庁の措置命令を受けて大幸薬品のウェブサイトから過大な宣伝文句がなくなりました。ただし空間除菌に関する問題が、これで全部解決したわけではありません。クレベリンの販売は続けられています。雑貨として販売すること自体は合法ですし、主力商品をいきなり販売停止にするわけにはいかないのでしょう。これまでの宣伝で空間除菌には効果があると誤認したままの消費者による購入も期待できます。それに大幸薬品以外のメーカーも空間除菌グッズを売っています。

「誇大宣伝を行うほうが利益になる」業界構造の問題

振り返って考えてみると、誇大宣伝を行うほうが企業の利益になるという業界の構造自体に問題があったのではないでしょうか。空間除菌に限らず、とくに健康食品やサプリメント関係の広告は目に余るものが多いです。商品の実質的な価値を高めることではなく、法律の網をかいくぐって宣伝して売ることに企業努力が傾けられているように見えます。

写真=iStock.com/kate_sept2004
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たとえ誤認であっても、ひとたび「健康によい」というイメージが定着してしまうと、その誤認につけこんだ販売戦略が可能になります。みなさんは、「がんに効果があるサプリメント」として何を連想するでしょうか。有名なのはアガリクス、メシマコブ、サメ軟骨あたりでしょうか。これらのサプリメントががんに効くという明確なエビデンスはありません。エビデンスがあったら、とっくに薬として医療の現場で使われています。

エビデンスがないのに、がんに効果があるかのように思われている理由は、かつて違法な誇大宣伝がなされていたからです。今でもこれらのサプリメントは販売されていますが、大手のメーカーはあからさまには効果効能を謳っていません。効果効能を謳うのは法律違反ですし、謳わなくてもがんに効果があるというイメージが残っているので一定数は売れるのです。