しかし、今から焼きそば店に戻るのは現実的ではない。焼きそば店はメディアという流行の波に乗るかたちでビジネスを拡大してきたが、その手法には限界がある。
バナナジュースは客の生活習慣に入っていくビジネスだ。コロナで変わった客のニーズを察知し、「流行から習慣へ」とビジネスの舵を大胆に切った黒田の選択は間違っていなかった。それはバナナスタンドの結果を見れば明らかだろう。
若き経営者がたどり着いた新しい飲食店のかたち
脱サラして4年。黒田が学んだのは、流行に依存せず、客の生活習慣に根ざしたビジネスには時間がかかることだ。
「仙川駅に朝から立ってるとわかるんですけど、あの駅は一日6万~7万人の利用者がいるんです。でもうちの店に立ち寄るのはせいぜい200人。夏でも400人くらいです。これを倍にするのは簡単なようで、なかなかできない。利用者の生活が一気に変わるわけじゃないから、一緒に変わっていくしかないんです。スタバだって40年かかったんですよね」
今でも黒田が理想とするのは、「銀座バナナジュース」だ。バナナジュースを飲むことが習慣になった客が、自然と集まってくる。同じことがすべての店でできれば、バナナスタンドはもっと生活に溶け込んでいくはずだ。
流行は一瞬だが、生活習慣は変えるのに時間がかかる。大事なのは、バナナジュースを求めて店に通ってくれる客を大事にしながら、環境に合わせてビジネスの形態を変えていくことだ。
コロナを機に苦境を強いられている飲食店は少なくない。黒田のスタイルは、逆境を跳ね返すための一つの解答例といえるかもしれない。