世界金融危機以降に低下から上昇へ反転した国防意識
それでは、「国のために戦う」という国防意識は、これまで、日本やその他の国でどう変化してきているのであろうか。この点を次に観察してみよう(図表2参照)。
ここで、調査時期について、例えば、「2017年期」と呼んでいるのは、同じ調査票が使用される調査回(原資料ではウェーブと表現)について2017年に最初に多くの国で調査されたからである。それ以前の年期も同様である。
まず、日本の結果については、毎期、「はい」が10%台半ばでほとんど回答傾向に変化がないのが大きな特徴である。
対照のために掲げた各国の結果のうち、例えば、韓国の推移を見ると、日本と比較して「はい」が多く、「いいえ」や「わからない・無回答」が少ない点は、毎期、変わりがないが、時系列的には、「はい」が8割水準から6割台へと減少し、「いいえ」が1割から3割へと増加するという傾向的な変化が認められる。
韓国以外の主要国の結果をざっと見渡してみても、日本ほど傾向的な変化が認められない国はない。
多くの国で共通しているのは、ソ連邦が崩壊し、冷戦が終わった1990年期をピークに国防意識が低下傾向をたどっていたのが、リーマンショック後の世界金融危機が起った直後の2010年期をボトムに反転している点である。
冷戦の終焉によって自由主義陣営と共産主義陣営との武力対立から解放され、戦争の危機がとりあえず去ったと意識された結果として国防意識が弱まっていったことは、なるほどと納得できる変化だったといえよう。
しかしながら、世界金融危機後の2010年期をボトムに再度、国防意識が各国で反転、上昇に転じた理由については、必ずしも明確ではない。
私見によれば、こうした転換が起ったのは、世界金融危機を契機に、グローバリゼーションがもたらす経済成長によって皆が豊かになるという「プラス面」が後退して、貧富の格差、産業空洞化、移民問題、国際テロ、地球環境の悪化などグローバリゼーションの「マイナス面」ばかりが目立つようになり、弱まりつつあったナショナリズム意識が多くの国で復活し始めたからだと考えられる。
英国が2016年に国民投票でEU離脱を選択し、翌2017年に米国で「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政権が誕生したのがそれを象徴する二大事件だったといえよう。
世界価値観調査の結果には影響していないが、直近では、グローバリゼーションのマイナス面として、新型コロナなど国際感染症のパンデミック脅威がさらに加わっている。
軍事侵攻とそれへの反撃が続いている当事国のロシアとウクライナの国防意識の動きを見ると、今回の軍事侵攻を予見するかのように、両国とも2010年期から2017年期にかけて国防意識がかなり明確に反転、上昇しているのが目立っている。
こうした世界的トレンドとは、ほとんど関わりない日本人の意識の推移については、やはり、上述の要因に規定された特異なものと見なさざるを得ないだろう。