問題は最近の「若者」ではなく「中高年」である
最後に、こうした各国の国防意識の変遷を年齢別の意識の推移からとらえ直してみよう。
日本の低い国防意識について「最近の若者は国を守る気概に欠ける」などと表現されることが多いが、本当だろうか?
確かに、日本の2017年期の男女別、年齢別の結果を見ると、「国のため戦うか」への「はい」の回答率は、女性より男性、また若年層より高年層のほうが大きい(図表3参照)。
ところが、時系列推移を見ると(図表4参照)、若年層(30歳未満)の回答率はほぼ横ばい(10%前後)であるのに対して、高年層(50歳以上)の回答率は大きく低下してきており(1981年期31.8%→2017年期16.6%)、両者の差は大きく縮まっている。
1981年期には、若年層の11.5%に対して高年層は31.8%と2.8倍だったが、2017年期には、8.8%に対して16.6%と1.9倍にまで縮小しているのである。つまり、「最近の若者は国を守る気概に欠ける」のではなく、「最近の中高年は国を守る気概に欠ける」のである。
これは、「戦後民主主義」の洗礼を受け、戦争は悪と叩き込まれた団塊の世代が、若い頃の精神を保ちながら中高年の域に達したからであることは言うまでもない。選挙の票数は中高年のほうが圧倒的に多いので、保守党があまりに国防の強化にとらわれると痛い目に遭うだろう。
年齢計の「国のために戦う」回答率に年次変化が認められないのは、従って、相対的に国防意識の高い中高年の割合が高まって回答率を押し上げる効果を中高年自体の国防意識の低下が相殺しているからだと分かる。
世界は日本とは大きく異なる。「最近の若者は国を守る気概に欠ける」という言辞がまさしく当てはまっているのは米国である。米国では、日本とは逆に、中高年の国防意識が横ばいであるのに対して、若年層の国防意識はまさしく低下傾向をたどり、2017年期にも反転していない。
また、韓国やロシアでは、年齢によって異なる方向を向いているということはなく、若年層も高年層もほぼ同じ起伏の国防意識推移を示している。
ロシアについて特に目立っているのは、常に、若年層の国防意識が中高年の国防意識を上回っている点である。確かに、こうした若年層の「国のために戦う」という意識の高さがなければ、さすがのプーチン大統領もウクライナへの軍事侵攻には踏み切れなかっただろう。