カード1枚で済むなら楽なように思えるが…
政府はマイナ保険証のメリットについて、以下のような事項を列挙している。
●就職・転職・引越をしても健康保険証としてずっと使える!
●マイナポータルで特定健診結果や薬剤情報・医療費が見られます!
●マイナポータルで確定申告の医療費控除がカンタンにできます!
●窓口への書類の持参が不要になります!
たしかにカード1枚あればずいぶんと楽になるようにも思える。とくに保険者が変わった場合に新しい保険証の発行を待たずに医療機関や薬局を利用できる、書類の持参が不要になるなど、魅力を感じる人もいるかもしれない。ただこれらは、そうそう頻繁に発生する事態ではない。わざわざマイナ保険証にせずとも、現行の保険証のままでいいのではないか。
自分の健診結果や薬剤情報、医療費を見ることができる、という“メリット”はどうだろうか。一元管理された情報をすぐに閲覧できるというのは便利といえば便利かもしれない。しかしそもそもこれらの情報は私たち固有のものだ。健診結果もお薬手帳も、医療機関から出された領収書も自分でファイルに保管しておけばいいだけの話だ。わざわざ“第三者”にまとめて管理してもらう性質のものではない。
個人の医療情報が誰かに利用される可能性もある
たしかに医師としては他の医療機関での処方や過去の健診結果が患者さんに紐づけされていたほうが診療を行う上では便利であるし、患者さんにとっても有益ではある。電子健康記録や電子医療記録の普及によって、医療機関のみならず介護施設でも情報が共有できれば、その便益は非常に大きい。
もちろん私たち医師がそのデータや個人情報を診療の目的以外に悪用するということも常識的にはまずあり得ないし、政府も現時点では個人の医療情報はマイナンバーに紐づけされるものではないとしていることから、マイナ保険証を作ったからと今すぐ自分の診療情報等が広範囲に漏洩してしまうということもないだろう。
しかしそれはあくまでも現時点での話だ。将来は分からない。マイナンバー、被保険者番号、医療情報と紐づけが想定される医療等ID、これらの関係によっては、今後個人の医療情報が一元管理されることで、それが医療機関以外の“第三者の誰か”に「利活用」される可能性がないとは言えなくなるのだ。