政府の目的は本当に健康増進のためだけか

すでに政府は健診結果等の個人の医療情報、いわゆるPersonal Health Record (PHR)を「利活用」しようと着々と準備を進めている。医療分野のICT化、医療等IDの導入等により、個人ごとにデータを統合、誕生から死までの包括的なPHRを収集・活用するのだという。こうしたデータを基に適切な予防策を講じれば、健康寿命はさらに延伸、いわゆる「未病」の考え方がより重要視されるようになり、その流れの中で新しいヘルスケア産業の創出も期待されるというのだ。

もちろん個人の健康増進のためにPHRを用いて未病の段階から対策を講じるという点について異論はない。ただその情報はあくまでも個人が管理し、共有されるにせよ自分が利用する医療機関や介護施設だけに限定されるべきであろう。しかし政府が意図しているのはそれだけにとどまらない。むしろそれ以外の目的がメインではないかとすら思えるのだ。

厚生労働省がPHRを国民の健康増進のためだけに利用しようと旗を振っているだけであればまだ理解できなくもない。だが、クラウドやスマートフォンの普及に加えてアプリを通じて個人の医療・健康情報を収集・活用するサービスモデルの開発と普及展開を進める総務省、さらにヘルスケアIT分野への民間投資活性化に取り組む経済産業省までもがPHRの推進に名を連ねているとの事実を知れば、PHRが国民の健康増進だけのためではないことが容易に理解できよう。個人情報をビジネスや成長戦略のタネにしようといううさんくさい話が、一気に見えてきてしまうのだ。

病院の受付窓口
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そのためにはマイナンバーカードの普及が大前提

つまり私たち固有の医療・健康情報を、今すぐでなくともいずれは広く民間事業者で共有することで、ヘルスケア産業の活性化と投資活性化に「利活用」しようとしているのだ。その基盤となるのが、まさにマイナンバー、そしてマイナ保険証の普及を通じた個人の医療・健康情報の一元管理ということなのだ。

じっさい「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プラン」(2020年7月30日、厚生労働省データヘルス改革推進本部)によれば、以下の3つのACTIONを2年間で集中的に行うとしていた。

(ACTION1)全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大
(ACTION2)電子処方箋の仕組みの構築
(ACTION3)自身の保健医療情報を活用できる仕組みの拡大

そしてACTION3では、本人の同意の上で健診結果等を医療専門職と共有し、さらに個人が健診結果や薬剤情報等の医療情報を閲覧するだけでなく、民間PHR事業者や健康増進サービス提供事業者によるサービスを通じた情報を利活用できるようになるとしている。もちろんこれらを実現するには電子医療記録等の構築が前提となるし、マイナポータルを使うことからマイナンバーカードの普及も大前提となるのだ。