「申し立て」がいじめ被害者の親の間で流行

そして今、いじめ被害者の保護者の間で、「学校・教育委員会がこちらの言うことを聞いてくれなかったら、とにかく申し立てをすればいい。そうすれば学校・教育委員会はなんらかの対応をせざるを得なくなる」ということが広まりつつあります。

要するに、申し立てという“飛び道具”を使えば、学校・教育委員会に言うことを聞かせることができるというわけですが、こうしたやり方は保護者と学校・教育委員の溝を深めるばかりでなく、決していじめ問題の解決につながることもありません。なぜなら、ここで大切にされているのは「親の感情」や「親の正義」だけであって、子どもは置き去りにされているからです。

実はこのリコーダーのケースでは、子どもは調査委員会の立ち上げを望んでいませんでした。「親が毎日のように学校に文句を言っているから、学校に行きにくくなってしまった。僕がやられたことを友達に知られるのがイヤだから、調査委員会なんか立ち上げないでほしい。森田さん、親をなんとかしてください」と言うのです。私は子どもの気持ちを親に伝えて、「申し立てについては子どもの意思を尊重してほしい」と話しました。

校長の定年退職前は要注意

いじめの事実を把握しながら、「いじめはなかった」と言い張る悪質な学校・教育委員会が実在することも把握しています。

校長がその年度末に定年退職を迎える場合、いじめを認めようとしないケースが多いです。実際に私がかかわった事案でも、なぜか校長が「来年度になったら調査委員会を設置しますから」と何度も言うので、不審に思って調べてみると、校長がその年度末で定年退職することがわかりました。

「あなた、来年度来年度って言うけど、来年度は学校にいないじゃありませんか!」と思わず叫んでしまいましたが、そうまでして経歴にキズをつけたくないなんて、教育者としてあるまじき姿だと言うほかありません。

定義に該当しているにもかかわらず対応しない学校や教育委員会の場合は、私はむしろ「申し立て」という最終手段を使うことを相談者に勧める場合もあります。ただし、こうした本当に悪質なケースは100件のうち1割にも及びません。

問題の解決改善に時間をかけることは決して子どもたちにとって良いことではないので、学校・教育委員会、保護者は法律やガイドラインを正しく理解したうえで解決に向けた話し合いをしていただきたいと思います。

(構成=山田清機)
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