法律上は行為を確認できないと「いじめ」認定できない
私の考えをお伝えする前に、「いじめ防止対策推進法」がいじめをどのように定義しているかをおさらいしておきたいと思います。
注目してほしいのは、「当該行為」という言葉です。いじめ防止対策推進法では当該行為によって児童等が心身の苦痛を感じた場合にそれをいじめと言うと定義しているのであって、「苦痛を感じていれば即いじめ」ではありません。「当該行為」が確認できなければ、いじめがあると認定することは困難です。
このいじめの定義に立ち帰って、先ほどの保護者と学校・教育委員会の言い分を比較してみると、保護者と学校が「こじれる」理由がはっきりと見えてきます。
保護者の方は「うちの子がいじめられているのを認めろ」と訴えているわけですが、学校・教育委員会の方は「当該行為があったかどうか調べてみたが、わからなかった」と言っています。
つまり、保護者は「いじめと認定すること」を問題にし、学校・教育委員会はいじめの前提である「当該行為」を問題にしている。ここが決定的にズレている。そして、このズレこそ保護者と学校・教育委員会が「こじれる」最大の原因なのです。
保護者の多くは「行為を確認できなかった」という学校・教育委員会の言葉を、「学校・教育委員会は、いじめはなかったと言っている」と翻訳して怒りを爆発させてしまうのですが、このズレを認識しない限り、保護者と学校・教育委員会の話し合いは、何年たっても平行線のままということになってしまうのです。
リコーダーがなくなって不登校になったケース
こうした事態に法律自体が拍車をかけている面もあります。
かつて私は、こんな相談を受けたことがありました。
子どものリコーダーがなくなり、教室のゴミ箱から見つかった。それがショックで子どもが不登校になったので、「不登校重大事態」(※)として調査委員会を設置してほしいと学校に頼んだ。ところが、学校が動いてくれないのでなんとかしてほしい、という相談です。
学校に問い合わせをしてみると、調査をしたのだが、リコーダーを捨てたのが誰だかわからなかったといいます。実際に捨ててあったのかも誰も見ていない。子どもたちに聞いても、いじめられていたというような話も出てこない。事実は本人のみぞ知ることで、客観的に「行為」を確認することができなかったのです。
学校はそのことを伝えていたのですが、保護者は「学校はいじめを認めてくれない」と不信感を募らせ、「不登校重大事態として調査委員会を立ち上げるように『申し立て』を行う」と言って全面対決も辞さない構えです。
実は、不登校重大事態については、平成25年の6月の参議院文教科学委員会で以下のような付帯決議がなされています。
つまり、行為を確認できなくても、児童か保護者から「申し立て」があれば、学校・教育委員会はいや応なく調査委員会を設置するなどの対応を取らなくてはならない、ということになります。
※いじめ法第28条第1項は「重大事態」について、「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認める」事態(自殺等重大事態)および「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認める」事態(不登校重大事態)と定義している。