民放連が17年に実施した「海外(イギリス、ドイツ、米国)の同時配信の利用実態調査」では、この傾向はもっと顕著で、利用シーンは3カ国全体で「自宅」が80%に達した。「外出先や移動中」は、米国こそ26%だが、ドイツ10%、イギリス16%と、きわめて少数派だ。

民放各局が想定する利用イメージとはギャップがあるようだ。

一方、「NHKプラス」についても尋ねている。それによると、「同時配信」スタートから丸1年った21年4月でも「聞いたことがない(知らなかった)」が3人に2人もおり、認知度は低い。「利用したことがある人」に至ってはわずか4.5%にすぎなかった。

15年近い実績のあるイギリスでは、ネット配信の利用者のうち多くは「見逃し配信」で、「同時配信」の視聴者は2割程度にとどまっているという。

つまり、民放連の調査結果は、「同時配信」が視聴形態のメインストリームにはならないという答えを導き出しているようだ。

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収益化が見通せる状況にはない

採算性はどうか。

民放の場合、広告収入の基軸となるのは視聴率だが、「ネット」の配信データは視聴率に反映されないため、「同時配信」のコスト回収はおろか、「テレビ」からの移行によって生じる目減り分も補塡ほてんできそうにない。

民放連研究所も、「ネット」のCMを、「テレビ」のCMから差し替えて配信しない限り、収益に結びつけることは難しいと論じている。

海外でも、「同時配信」のビジネスモデルを構築するためにさまざまな試みがなされているが、「ネット」の視聴率を「テレビ」に加算することは技術面からも難易度が高く、確立している事例はないという。

いまだ試行錯誤の段階であり、直ちに収益化が見通せる状況にはない。日テレの杉山社長も「本格的に収益を得る段階には至っていない」と吐露している。

著作権の処理手続きに課題も

「テレビ」と「ネット」の著作権が別体系という厄介な問題もある。

「NHKプラス」では、東京オリンピック・北京冬季オリンピックや大相撲を楽しめたが、春の選抜高校野球は配信されなかった。定時ニュースでも、スポーツ関連ニュースを中心に「この映像は配信されておりません」と表示されることがしばしば。利用者はストレスがまっているに違いない。

「テレビ」では放送できても、「ネット」でそのまま番組を配信できるわけではないのだ。

こうした中、21年春の改正著作権法で、放送番組のネット配信にあたって権利処理の手続きが簡略化され、ネット配信関係者には朗報となった。具体的には、権利者が別段の意思表示をしていなければ、放送と同様に「同時配信」や「見逃し配信」での利用も許諾したと推定する「許諾推定規定」が新たに創設されたのである。

とはいえ、まだまだ放送のように権利処理がスムーズにはいきそうにない。