「日テレ系ライブ配信」でも、再生数がもっとも多かったのは、21年10月31日の衆議院議員選挙の開票特番「zero選挙」だったという。

こうした点からみれば、報道に力点を置くNHKが「同時配信」に力を入れるのは当然で、民放のネット戦略はおのずと異なってくるだろう。

民放の「同時配信」に6割の人は使いたいと答えたが…

では、実際に「同時配信」のニーズは、どのくらいあるのか。

日本民間放送連盟(民放連)の研究所が実施した「ネット配信サービスの利用動向調査」をみてみよう。

調査は、20年3月と21年4月の2回、全国の15歳から69歳までの男女6188人を対象にネットで行われた。ネット利用者限定で70歳以上を除いた集計という偏りがあるものの、視聴者意識のおおまかな傾向がわかる。

まず、民放の「見逃し配信」は、4割弱の人が利用した経験があり、男女とも若年層の割合が高い。視聴時間については、「たまに(不定期)」が半数を占めるものの、「週当たり1~3時間未満」が15.7%から19.8%と増えている。こうしたことから、巷間こうかん言われる「テレビ離れ」は、「テレビ受像機離れ」であって、「テレビ番組離れ」ではないことがうかがえる。

肝心の民放の「同時配信」をみると、「利用してみたい」という回答は60.6%に上った。年齢や男女に違いはあまりない。

「テレビ」の視聴時間や「見逃し配信」の利用経験とのクロス解析では、「テレビ」をよく見ている人ほど関心が高く、「見逃し配信」の経験のある人ほど利用意向が強かった。

「テレビ番組離れ」を止める効果は期待できない

しかし、「見逃し配信」の経験がない人(回答者の6割強)のほとんどは、今後も「テレビ」をリアルタイムで見続けるか、せいぜいタイムシフト視聴になるとみられる。「同時配信」の番組は「テレビ」も「ネット」も基本的に同じなので、わざわざ「テレビ」から「ネット」に移行するインセンティブが働かないからだ。

したがって、「同時配信」は、番組を「ネット」で見る「テレビ受像機離れ」には一定の効果が期待できるものの、もともと「テレビ」を見ない「テレビ番組離れ」にはあまり効果が期待できないと分析している。

自宅で電子機器を使用する父と娘
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民放キー局は「テレビを見ている人がネットに移るのではなく、そもそもテレビを見ない層を開拓することに照準を置いている」と本格参入の狙いを語るが、思惑通りにはいくかどうかは微妙だ。

イギリスでの「同時配信」利用者は2割にとどまる

また、利用シーンについて、「利用してみたい」と回答した人に尋ねたところ、「自宅のテレビがない場所」が68.3%がトップで、「外出先や移動中」は55.7%だった。