「進むも地獄、退くも地獄」民放のネット同時配信に勝算はあるのか

民放キー局が4月11日から一斉に、「テレビ」の番組を、「ネット」を使ってリアルタイムでパソコンやスマートフォンで見ることができる「同時配信」に本格的に乗り出す。

テレビ番組をインターネット配信するサービス「NHKプラス」の画面(左)=2020年3月1日、東京都中央区
写真=時事通信フォト
テレビ番組をインターネット配信するサービス「NHKプラス」の画面(左)=2020年3月1日、東京都中央区

先行するNHKと違って、民放界は「同時配信」が新たなビジネスとなる見通しが立たず、おしなべて慎重だったが、それでも踏み切る決断をしたのは、若年層を中心に急速にテレビ離れが進み、ネット社会への移行が加速しているからだ。

メディアライフの大きな転換点に直面し、「テレビ」のジリ貧が目に見えるようになり、もはや「儲かりそうにないから」と二の足を踏んでいられる状況ではなくなったといえる。

だが、実際に視聴者のニーズがどれほどあるのか、コスト増に見合うだけの収益を確保できるのか、「ネット」における著作権処理はスムーズにできるのか、地方局の広告収入が激減しないか……等々、目の前に積まれた難題は山積している。

日本の放送界は、「公民二元体制」という世界でもまれな業態で発展してきたが、「テレビ」のサクセスストーリーがネット時代にも引き継がれるかどうか。受信料という確固とした財政基盤に支えられるNHKに対し、広告収入に頼る民放界が同じ土俵で競うのは容易ではない。

まさに、「進むも地獄、退くも地獄」のいばらの道が待ち受けているのだ。

民放キー局の「勝算なき同時配信」への本格参入は、「NHK一強時代の始まり」という声も聞こえてくるだけに、放送界にとって歴史的なターニングポイントになるかもしれない。

消極姿勢から一変、キー局トップは意気込むけれど…

「見ている人の利便性を大前提として検討した。テレビとの接点が薄れている人にコンテンツを提供するチャンス」(TBS・佐々木卓社長)
「始める以上はできるだけのユーザーを獲得し、新しいデバイスとしてビジネスになれば」(テレビ朝日・早河洋社長)
「コンテンツが視聴者に届く機会が増えることは、送り手として喜ばしい」(フジテレビ・金光修社長)

民放キー局のトップは、口々に「同時配信」への意気込みを語る。これまで及び腰だっただけに、一気にギアチェンジしたようにみえる。

キャッチコピーも、「『より便利な、より気軽な』新しいテレビ番組の楽しみ方、視聴体験を提供します」(テレビ東京)などと、にぎやかだ。