ネット利用者に「テレビ」の番組が受け入れられるとは限らない
民放にとってみれば、クリアすべき課題が山積しているのに、このタイミングで「同時配信」に本格参入することを決断したのは、「テレビ」を取り巻く環境が様変わりしつつあるからだ。
NHK放送文化研究所が5年ごとに実施している「国民生活時間調査」の2020年版では、「毎日テレビを見る人」が8割を切り、20代以下では半数が「テレビ」を見なくなったことが明らかになった。
10年までは、9割の人がテレビ漬けの日々を過ごし、若年層も8割以上が毎日テレビを見ていただけに、この5年間の「テレビ離れ」のスピードは半端ではない。
総務省の「2020年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」では、20年度に初めて、全年代で平日の「ネット」の平均利用時間が「テレビ(リアルタイム)視聴」の平均利用時間を上回った。
動画配信サービスの利用率も、全年代で「ユーチューブ」が85%なのに対し、「Tver」は14%にすぎない。誰もが「ネット」で動画を見るようになったが、「テレビ」の番組を見る層は限られているといえる。
大久保好男・民放連会長は「視聴習慣の変化は今後につながっていくだろう」と危機感を隠さない。
出血覚悟の同時配信…収益化への道のりは険しい
さらに気になるのは、民放の本業である「テレビ」の広告費の動向だ。19年に「ネット」に抜かれ、その差は広がるばかり。広告主は、利用者へのリーチ度や購入履歴などの広告効果が詳細に把握できる「ネット」にシフトしていることがみてとれる。
あらゆる面でDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速度的に進行している中、民放界だけが「ネット」と距離を置いているわけにはいかない。
もっとも、出血覚悟で先行投資をするメリットがないわけではない。「ネット」を利用した配信は、視聴履歴などのデータを蓄積して展開できるため、個別データの分析をもとに視聴者に合わせた広告を提供できるようになれば、新たな収益源を創出する可能性が見いだせるかもしれない。
民放界は「清水の舞台から飛び降りるような気持ち」で、「同時配信」に活路を求めようとしている。