キーワードは「保湿」「清潔感」「透明感」

この考えが功を奏し、ファンデーションに抵抗がない男性が増えていったとのこと。

右がリップあり(写真提供=レスプリ)

最近、Z世代に人気のキーワードは「保湿」や「清潔感」「透明感」で、「とくにコロナ禍の除菌ブームなども影響してか、清潔感への関心が高まっている」と長島さん。

リップバームも、唇がカサカサしていると感じたときに塗るだけで、清潔感や色っぽさを感じさせられるはずだといいます。

「これまで女性の多くが、メイクによって見た目や気分をアゲられた半面、男性は大半が『素(素顔)』で勝負してきた。彼らにも一度経験してもらうことで、『メイクで、こんなに変われるんだ』と気づいてもらえるはずです」

顧客にモノやコトの重要性を認識してもらう方法

長島さんが言う「経験価値」の重要性は99年、アメリカの経営学者バーンド・H・シュミットが、著書(※1)において定義しています。

すなわち、顧客にモノやコトの重要性を認識してもらうには、戦略的にその対象物との「価値ある(心地よい)経験」をさせることが重要である、ということ。

図表=筆者作成

「メンズメイクで気分がアガる」や「こんなに変われるんだ」といった体験価値は、シュミットが5つに分類した経験価値モジュールのうち、「SENSE(感覚的価値)」、あるいは「FEEL(情緒的価値)」に当たるでしょう。

社会全体では、まだメンズコスメが「当たり前」ではない。だからこそ、まずは「気軽に手に取れる」「試しに塗れる」といった体験の場や機会を提供することが重要です。

(※1)Schmitt, Bernd H.1999『Experiential Marketing: How to Get Customers to Sense, Feel, Think, Act, Relate』(Free Press)

5年後、10年後は男性のメイクは当たり前に

東京・伊勢丹新宿店メンズ館は、19年3月のグランドオープンを機に、1階に水道設備を完備。買い物途中でも試せる、メンズコスメの「トライアルスペース」を新設しました。また21年8月、東京・新宿マルイも、1階にメンズコスメブランド「バルクオム」初のフラッグシップショップを開業。最新テクノロジーを駆使し、自身を映すと肌の色に合うメイク用品を提案してくれる「デジタルミラー」を設置しました。

Z世代の男性の父親(おもに40、50代)は、「メイクするのが当たり前」の世代ではありませんが、「女性が母親の背中を見て育ち、『大人になったらメイクするものだ』と考えるように、あと5年後、10年後には、若い男性も『メイク=当たり前』と感じてくれる時代が来るはず」と長島さん。

そのときまでに貴重な「経験価値」を提供できる企業こそが今後、メンズメイク市場での勝者となりそうです。

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