ロシア外相の根拠なき主張で深まる亀裂

なお、ロシアはウクライナが要求に応じれば即時停戦すると主張している。ロシアの要求には、クリミア半島をロシア領土として認めること、またドンバス地方を独立国家として承認することなどが含まれる。ウクライナは安全保障に関する確約が(特にロシアから)あれば中立性を受け入れ、NATO加盟を断念する可能性を示唆している。また、ロシアが支配するクリミアやドンバス地方の将来的な地位について譲歩の余地があるとも示している。

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ただし、3月10日の外相会談では、ロシアのラブロフ外相がロシアのウクライナ攻撃を否定し、米国がウクライナでの生物兵器研究の資金援助をしていると根拠を示さずに主張した。ウクライナのクレバ外相は、ラブロフ外相にはあたかも決定権がないようであり、停戦交渉をするのは不可能と発言するなど、議論がまずかみ合っていない。

このような中、現時点で考えられる今後のシナリオとして以下の5つが想定される。

①紛争の泥沼化
②ウクライナの全面占領
③ウクライナの部分占領・ロシア軍駐留
④ウクライナ東部の独立承認・ロシア軍の段階的撤退
⑤第3次世界大戦の勃発

長期紛争か従属国家化か、それとも分断か

停戦交渉の行方が見通せない状況が続くのであれば「①紛争の泥沼化」の可能性が高まる。ウクライナ軍の徹底抗戦によって、キエフだけでなく他の大都市制圧に相当の時間がかかり、長期間にわたる包囲戦となる。1990年代に長く続いたチェチェン紛争での、グロズヌイの戦いを彷彿とさせるような事態となる。

また「②ウクライナの全面占領」は、ロシア軍がより統制のとれた部隊を多く投入し、現在よりもウクライナ軍を圧倒し、(ウクライナ軍の)戦闘意欲が薄れるといった流れである。政府は親ロシア派政権にとってかわられ、ゼレンスキー大統領はEU加盟国または英国に避難し、そこで亡命政府を設立する。プーチン大統領は、ある程度の支配を維持するに足るだけの軍をウクライナに残し、あとは撤退させる。

これは、ウクライナがベラルーシ同様にロシアの従属国家となり、大量の難民が西側にわたり続けるなど悲惨なシナリオとなる。しかし、親ロシア派政権は当然ながら正当性を持たず、反体制勢力の抵抗に晒され続ける可能性が高い。

また「③ウクライナの部分占領・ロシア軍駐留」では、西部および中部の自由なウクライナと、ロシア勢力圏にあるソ連スタイルのウクライナへの分断が考えられる。ロシア語を話す市民の多い東部と、親欧派の西部および中部で分断され、西部のリヴィウを新たな首都としてゼレンスキー政権が亡命政府を樹立。東部奪還を目指し、親ロシア派政権が支配する東部での果てしない反政府運動を指導していくというシナリオである。