ロシア軍によるウクライナ侵攻は今後どのように展開していくのか。大和総研ロンドンリサーチセンター長の菅野泰夫さんは「ウクライナが領土問題で譲歩する代わりに、ロシア軍が段階的に撤退する条件で水面下の停戦交渉が進んでいるようだ。停戦があるとすれば今月中ではないか」という――。
「ロシアは戦争を起こさない、終わらせる」というスローガンが書かれたポスター
写真=EPA/時事通信フォト
2022年3月10日、クリミア・シンフェロポリの路上で、ロシアのプーチン大統領の写真と「ロシアは戦争を起こさない、終わらせる」というスローガンが書かれたポスターの前を歩く市民。

予想以上に強力な抵抗を続けるウクライナ軍

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって、約3週間が経過した。当初は、ウクライナ侵攻後、1週間もたたないうちにロシアが勝利すると予想されていた。しかし約3週間が経った今でも激戦が続き、キエフは陥落していない。

ウクライナ軍は予想されていた以上に強力な抵抗を続け、西側諸国も武器供与を続けている。ロシア軍も戦術的なミスや、兵站の不足、ウクライナ軍の能力を過小評価するという情報戦の失態などに見舞われている。

無論、この紛争がどのような終結を迎えるのかは誰にも分からない。ベラルーシにて、双方の政治アドバイザーを巻き込んだ停戦交渉が3回、3月10日にはトルコで侵攻開始後最もハイレベルな協議となる外相会談が開かれた。しかしオンラインで開かれた4回目を含め、これら交渉ではほとんど進捗がみられず、戦争の長期化も視野に入り、地政学的リスクは確実に高まりつつある。

ロシアとウクライナの信頼感はゼロに等しい

特に停戦条件を巡る両者の主張は大きく隔たり、長期的な解決策は見えてこない。3月10日以前の停戦交渉は、ロシア軍の制圧下にある都市からのウクライナ市民避難の人道回廊や、短期的な停戦といった特定の人道面の問題に焦点が当てられていた。

しかし、これら交渉で合意された短期的な停戦実施が守られていないことや、ロシアが人道回廊に指定された道路を砲撃したり、地雷を埋めたりしているとの報道もあり、交渉の進捗に不可欠な双方への信頼感はゼロに等しい。

外相会談に先立ち、ゼレンスキー大統領の首席補佐官は、隣接諸国から安全保障に関する確約と引き換えに、(ロシアが要求してきた)ウクライナの中立性、すなわちNATO非加盟について議論する用意があると述べた。しかし、ウクライナ領土の一部にロシアが主権を主張している点などについては、双方の意見が真っ向から対立しているため、合意形成が難しいという現実がある。